フィリピン、ミンダナオ島の高地に広がる熱帯雨林で、昆虫学者アナリン・カブラス氏は日々、細心の注意で昆虫たちを探している。「ホウセキゾウムシ(jewel weevil)」と呼ばれる、小さな玉虫色の昆虫たちだ。
このゾウムシたちは、わずかな振動でも感知できる。そのため、捕食者(または研究者)が枝を揺らした瞬間、ゾウムシは本能的に下の地面に飛び降りる。そして暗い色をした腹を上に向けて、地面に溶け込むのだ。
「珍しい種を見つけると、できるだけ慎重に動きます。いったん落ち葉にまぎれてしまったら、見つけることはほぼ不可能です」とカブラス氏は話す。同氏は、フィリピン、ミンダナオ大学甲虫類研究センターの主任研究員で、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーでもある。
ゾウムシ科は地球上で最も多様なグループの1つで、6万2000種以上が確認されている。(参考記事:「ゾウムシの「鼻」はなぜ長い?」)
フィリピンには400種を超えるホウセキゾウムシがいるが、その多くはとても狭い範囲にしか生息していない。生息範囲が森のほんの一角ほどの場合もある。
カブラス氏は、そんなホウセキゾウムシを5年にわたって調査してきた。その努力が報われ、新種のホウセキゾウムシ2種を発見し、2018年に論文を発表した。また、さらに7種について、新種として特定する作業を進めている。
ゾウムシの不思議
ホウセキゾウムシは、その名の通り、生きる宝石だ。ホウセキゾウムシの鞘翅(さやばね)には、きらめく模様が随所に刻まれている。その色合いは、光沢のある青緑色や輝く金色、淡いオレンジ、かわいらしいピンクまでさまざまだ。(参考記事:「生命を包む美しく硬い翅」)
ホウセキゾウムシはとても目立つため、カエルやトカゲ、鳥に見つかりやすいと思うかもしれない。実際のところ、ホウセキゾウムシは見られたいのだ。
「ホウセキゾウムシの体は、とても硬いのです。踏んでも簡単にはつぶれません」とカブラス氏は話す。「だから、より鮮やかな色になり、食べられないと捕食者にアピールしているのです。食べようとしても苦労することになるぞ、と警告しているのです」(参考記事:「色覚のない敵に「派手さで警告」は通用するか?」)
おすすめ関連書籍
世界一の記録をもった〈ものすごい〉昆虫135種をすべて写真付きで紹介!2010年に刊行した『ビジュアル 世界一の昆虫』が、手に取りやすいコンパクトサイズになってついに登場。 〔全国学校図書館協議会選定図書〕
定価:2,970円(税込)