相次ぐ絶滅危惧セミクジラの不自然死、残り400頭

カナダ沖で4週間に6頭も、このままなら絶滅は「ほぼ確実」

2019.08.03
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「ウルヴァリン」の死

 2018年、カナダ政府は新たな漁業禁止海域や新しい航路、船の制限速度を設けた。するとその年、タイセイヨウセミクジラの死は3頭にとどまり、カナダでは1頭も死ななかった。新たに子どもも生まれなかったが、死亡率が減少したことで関係者らは胸をなでおろした。

 2019年1月には、米ジョージア州とフロリダ州沖の繁殖海域で7頭の子クジラ誕生といううれしいニュースもあった。ところが、その後状況は再び暗転する。

 6月4日、セントローレンス湾上空を飛行していた調査機が、血の海のなかで浮かんでいる「ウルヴァリン」という名の9歳のセミクジラを発見した。ウルヴァリンは幼いころ船のプロペラに衝突し、背中に3本の傷を負っていた。その傷がアメリカン・コミックのキャラクター「ウルヴァリン」を思わせることから、そう名付けられた。(参考記事:「英語名は“ウルヴァリン”、小さな肉食動物クズリに迫る危機」

 たった9年という短い生涯で、ウルヴァリンはわかっているだけで漁具に3回引っかかったが、いずれも自力で抜け出した。だが、ウルヴァリンは運がいい方だった。漁具が絡まると、体の自由が利かなくなって溺死したり、エサが取れずに餓死することが多い。(参考記事:「【動画】尻尾のないクジラを目撃、増えている?」

9歳のセミクジラ、ウルヴァリンの死骸から肋骨を外す研究者。(PHOTOGRAPH BY NICK HAWKINS)
9歳のセミクジラ、ウルヴァリンの死骸から肋骨を外す研究者。(PHOTOGRAPH BY NICK HAWKINS)

 ウルヴァリンの死骸は解剖され、6月9日にその中間結果が発表されたが、まだ死因は特定できていない。詳しい組織検査には、あと数カ月を要するという。

 一方、パンクチュエーションの死因は明快だった。

パンクチュエーションの死を無駄にしたくない

 シェテイキャンプの浜に引き上げられたパンクチュエーションの背中には1.8メートルの裂傷があり、そこから内臓が飛び出していた。船に衝突したのでなければ、このような傷を負うことはない。腐敗が進んだ死骸は、なぜか甘い香りを伴う刺激臭を放っていた。

 研究者と獣医は、パンクチュエーションの解体に取り掛かった。鋭いナイフを使って厚い脂肪を切り開いていく。獣医のピエール・イブ・ダウ氏がクジラの体内に腰まで入ると、防水の胴長はあっという間に血にまみれた。日が高くなるにつれて異臭はますますひどくなっていったが、ダウ氏は気に留める様子もなく作業を続ける。ショベルカーを使って、脂を次々にはがしていく。そのたびに脂身が砂の上にどさりと落ちた。

砂浜で解体されるセミクジラの死骸。頭に句読点のような形の傷があったことから、パンクチュエーション(英語で句読点の意)という名で知られていたが、6月にセントローレンス湾で死んでいるのが見つかった。(PHOTOGRAPH BY NICK HAWKINS)
砂浜で解体されるセミクジラの死骸。頭に句読点のような形の傷があったことから、パンクチュエーション(英語で句読点の意)という名で知られていたが、6月にセントローレンス湾で死んでいるのが見つかった。(PHOTOGRAPH BY NICK HAWKINS)

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