動き出す海底資源掘削、深海への理解は十分か?

深海底の資源に注目が集まるが、その生態系はまだまだ知られていない

2019.07.30
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 しかし、2001年から2016年にかけてISA契約企業が収集したデータの要約をナショナル ジオグラフィックが調べたところ、太平洋のクラリオン・クリッパートン断裂帯(CCZ)にある130万平方キロメートル近くの掘削予定海域では、生態系調査への努力に企業によって大きな差があることがわかった。

 ハワイとメキシコの間に広がり、水深4800メートルにも達するCCZは、ノジュールと呼ばれる岩塊に覆われている。ジャガイモ大のこれらの岩塊は、数千万年かけて海水から凝縮されたマンガン、コバルト、銅などの金属を豊富に含む。(参考記事:「激しくなる海底資源の争奪戦 」

 そして科学者は現在、ここは地球上で最も生物多様性が高い場所の1つだと信じている。

「お粗末なサンプリング」

 しかし先ほどの要約データによると、最も熱心な企業の場合でさえ、6万5000平方キロメートルの鉱区での生物サンプリング場所はわずか1500カ所、つまり43平方キロメートルあたり1カ所で生物サンプルを採集したのみであった。他の企業ははるかに少なく、なかには1万平方キロメートルに1カ所、という企業もあった。

「これらのデータは、まともな環境ベースライン調査を行うにはあまりにも貧弱です」と、1月までISAの環境マネジメント・鉱物資源局の局長を務め、現在は国際海底機構を批判する側にまわっているサンドール・ムルソウ氏は語る。

「現時点での最大の問題は、環境規制が強制力に乏しいことと、環境アセスメントをしっかり行うためのデータが欠如していることである」。ムルソウ氏および当時ISAの科学担当参事官だったシュテファン・ブレーガー氏は、昨年9月に学術誌「Marine Policy」に発表した論文にそう書いた。「私たちが向き合わなければならないのは、お粗末なサンプリングしか行われず、いまだによく理解できていない生態系だ」

 しかし、企業による調査にあたった科学者たちは、必ずしもサンプル数でデータの価値が決まるわけではない、と反論する。「生物サンプルの種類は多様であり、それぞれ質や規模、関連性が異なります」と話すのは、米ハワイ大学の深海学者であり、CCZ研究についての権威でもあるクレイグ・スミス氏だ。

 とはいえ同氏も、「とてもいいデータもありますが、企業によって質にばらつきがあることは疑いようがありません。CCZのサンプルは全体的にまだまだ足りていません」と認める。

 ISAの事務総長マイケル・ロッジ氏は、環境規制が甘かったという批判を否定している。「私が唯一言えることは、たしかに鉱区があまりに広いため、全体としてサンプリング地点の数に問題があるということです」とロッジ氏は話す。「データベースが公開されれば全体像を捉えることができ、どのあたりのデータが少ないのかを知るのに役立つはずですし、それによってより良い調査を行えると考えています」

次ページ:絶滅危惧種に指定される深海生物も

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