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写真家のアレクシア・ウェブスターは、メキシコのティファナで移民やメキシコ人のポートレートを撮る。花柄の布の前に立つヘラルド・エレーラ・ベタンコートは仕事を求めてメキシコシティからやって来た。PHOTOGRAPH BY ALEXIA WEBSTER

 撮影用のセットはシンプルだ。布に椅子、花が数本あるだけ。だが、撮られる人たちの事情はいささか込み入っている。

 子どもを連れてメキシコ人の夫を週末ごとに訪ねる米国人女性がいたり、米国から追放されたばかりの男性が人生をやり直そうと奮闘していたりする。彼らは街角の仮設スタジオに立ち寄っては、ポーズをとり、プリントした写真を手に去っていく。撮影するのは、南アフリカ出身のアレクシア・ウェブスターだ。世界各地の街角にスタジオをつくり、人々のポートレートを撮ってきた。メキシコ北部のティファナで、彼女は米国とメキシコの国境を行き来する人々を撮影するプロジェクトを立ち上げた。

 ティファナから米国カリフォルニア州のサンディエゴへ、毎日10万人近くが車や徒歩で合法的に国境を越える。通学や通勤、観光などのためだ。ウェブスターがティファナで最初にスタジオをつくったのは、米国を目指す移民たちが集まるカフェの近くだった。その後、さらに6カ所増やした。

1枚の写真にかけた思い

 10年以上も前、国連の依頼でケニアの難民キャンプで撮影していたとき、ウェブスターはある難民の男性からこんな話を聞いた。キャンプには写真家たちが撮影のために訪ねてくるが、自分や家族を写した写真をもらったことがないと言うのだ。ウェブスターは、祖父母と母が何十年も前にギリシャから南アフリカに移住した直後に撮った家族写真のことを思い出した。「私が持っているなかで、一番大切な写真です」とウェブスターは言う。「今の自分へとつながっているからです」。彼女が撮影する人々の多くが、思い出の品や写真も持たずに戦争から逃れてきた。1枚の写真が、人生を立て直す手助けになるかもしれないと彼女は考えた。

 2011年、ウェブスターは南アフリカのケープタウンに即席のスタジオをつくり、ポートレートを無料で撮るプロジェクトを始めた。撮った写真はその場でプリントしてプレゼントする。それ以来、彼女はインドのムンバイや南スーダンの難民キャンプなどで、スタジオをつくり、ポートレートを撮ってきた。

 撮影の際、ウェブスターは指示をほとんど出さない。「このプロジェクトの趣旨は、人々に人生の記録を再構築してもらい、アイデンティティーを確立してもらうことです」と彼女は語る。「だから、自分がどのように撮ってもらいたいかは自分で決めてほしいんです」

※ナショナル ジオグラフィック8月号「人生が交差する国境の街角」では、国境を行き来する人々であふれるメキシコの街角で、ポートレートを撮る写真家にその意味を聞きました。

文=ニーナ・ストローリック/英語版編集部