2010年、スイス、チューリッヒの空港で、ブラジルから到着したある乗客を見た税関職員が不審に思った。その男は妙な歩き方をしていた。麻薬を隠し持っているのではないかと職員は疑い、男の身体検査を行った。
ところが、下着のなかから出てきたのは、薬物ではなく25個の卵だった。アマゾン原産のコンゴウインコなどの卵だ。男は腹に卵を巻きつけて、11時間のフライトの間中ずっと温めていたのである。(参考記事:「動物大図鑑:コンゴウインコ」)
「あの時のことはよく覚えています」。ワシントン条約を担当するスイス連邦獣医局の副局長ブルーノ・マイニニ氏は語る。
似たような話は、ヨーロッパの他の場所でも聞くことができる。野生の鳥を密猟するのではなく、巣から卵を持ち去ってヨーロッパへ運び、そこで孵卵器に入れる。卵からかえったひなは、飼育下で生まれた鳥として合法的に売られるのだ。
不正に稼いだ金を合法に見せかけるマネーロンダリングと同様、これは「エッグロンダリング」と呼ばれる。合法ルートで鳥を入手したように見せかけて売りさばこうとする行為だ。(参考記事:「野生生物の密輸増加、手口も巧妙化」)
チューリッヒの空港で逮捕された男は、スイス国籍の共犯者がもうひとりいると供述した。しかも、山奥にあるその男の家には、他にも珍しい鳥が飼育されているらしい。
スイスのプライバシー保護法により、2人の氏名は明かされず、裁判記録も公開されていない。だが、マイニニ氏らが問題の家へ行ってみると、数百という鳥を発見して腰を抜かしたという。
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