はるかな昔、地球から遠く離れた銀河で、謎の天体が宇宙に向けて爆発的な電波(電波バースト)を放射した。そのパルスを2018年9月、オーストラリア西部にある電波望遠鏡アレイがとらえた。電波バーストの持続時間はほんの数ミリ秒だったが、科学者たちはそれを遡った。そうして発生源をつる座の方向に約36億光年離れた銀河と特定、6月27日付けで学術誌「サイエンス」に発表した。
天文学者たちは10年ほど前からこうした電波バーストを数多く観測してきたが、単発の電波バーストの発生源を特定することに成功したのは今回が初めて。こうした高速電波バースト(fast radio burst:FRB)の発生源が明らかになれば、その激しい爆発にエネルギーを供給する機構を絞り込むのに役立つはずだ。
「発生源を特定することは重要です。今後さらに発生源が特定されていけば、この現象の多様性が示され、電波バーストの発生機構を解き明かすのに役立つでしょう」と、今回の論文を執筆したオーストラリア連邦科学産業研究機構のキース・バニスター氏は語る。
けれども現時点では、新たな観測結果は謎を深めることになった。
高速電波バースト研究の第一人者であるオランダ、アムステルダム大学のエミリー・ペトロフ氏は、「高速電波バーストの正体に近づくことができたかどうかはわかりませんが、全体像には一歩近づいたと思います」と言う。(参考記事:「謎の「高速電波バーストの嵐」が発生、正体不明」)
繰り返しバースト発生させる矮小銀河
高速電波バーストが最初に話題になったのは約10年前のこと。米ウェストバージニア大学の天文学者ダンカン・ロリマー氏が、観測データの中から1秒にも満たない短時間の電波バーストを発見した。宇宙から来た電波だというロリマー氏の主張に対し、ありふれた電波なのではと疑う研究者もいた。あまりにも遠くから、あまりにも強い電波が来ているように思われたからだ。
けれどもその後、さらなる電波バーストが観測され、なかには複数の望遠鏡でとらえられるものもあったため、天文学者たちは遠方にある電波バーストの発生源を真剣に探すようになった。