アフリカの「優等生国家」に降りかかる難題とは

不満募らせる若者に過激派組織の甘いささやき、ニジェール

2019.07.02
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アフリカ諸国の人々を満載した小型トラックの列がサハラ砂漠を走る。3日かけてリビアへ向かうところだ。乗客の多くは出稼ぎ者だが、ヨーロッパを目指す移民もいる。PHOTOGRAPH BY PASCAL MAITRE

 ニジェールを囲む5カ国、北のアルジェリアとリビア、西のマリ、東のチャド、南のナイジェリアは、アフリカ最大のイスラム過激派の温床になっている。ニジェールはこの地域のなかでは最も貧しいが、今のところは最も平穏な国でもある。ニジェール駐在のエリック・ウィテカー米国大使がやんわりと言うように、「ニジェールは荒れた地域における優等生国家」なのだ。

 1960年にフランスから独立して以来、ニジェールでは軍事クーデターが4回発生している。反乱以前、ニジェール中部の都市アガデスは、サハラ砂漠への玄関口として年間最大2万人の観光客を迎え入れていた。その多くはパリから直行便で来る客だったが、遊牧民トゥアレグの武装勢力と政府軍の衝突が3年続くと、ツアー会社は一帯を危険地域と見なすようになり、主力産業だった観光業は衰退してしまった。

 その空白を埋めたのが、移民の輸送業者だ。アガデスはトゥアレグ語の「人の集まる場所」という言葉にちなんだ地名で、その地理的な位置から、塩を運ぶ隊商など、ラクダに乗った遊牧民の商人が集まる交通の要衝として、何百年も栄えてきた。アフリカの移民の中継地としても地の利を生かせるし、この街には元ツアーガイドや運転手も大勢いる。

「ボコ・ハラム」の甘いささやき

 だが近年、状況は変化してきた。

 ヨーロッパ諸国が移民流入に圧迫されつつあるなか、米軍主導の多国籍軍が、アフガニスタンで国際テロ組織アルカイダに、イラクで過激派組織「イスラム国」(IS)に対して掃討作戦を展開。結果、国境警備の手ぬるいアフリカがテロ活動の拠点になる懸念が一層強まり、移民はさらにヨーロッパの国々へと流れ込んだ。

 そこで、ヨーロッパ連合は支援と引き換えに、ニジェール政府に圧力をかけた。2015年に移民の輸送を禁止する措置がとられ、アガデスでは、警察が多数の小型トラックを押収し、仲介人や運転手らが逮捕された。市の最大の収入源だったビジネスは公的には禁じられ、その経済は事実上、違法取引が支えることになった。

 泥れんがの壁の向こうで交わされる会話に耳を澄ませば、若者たちの不満の高まりが手に取るようにわかる。彼らは残された選択肢がほとんどないとぼやいている。学校に行き、仕事を探し、まともな生活をしようとしてきたが、雇用はゼロに等しい。違法ビジネスに活路を見いだした者の多くも、仲間が逮捕され、トラックを没収されるのを見て、足を洗った。これからどうすればいいのか、みんな途方に暮れている。

 そんな彼らの耳に、甘いささやきが聞こえてくる。「仕事を探しているのか? 雇ってやるよ」「結婚式の資金が要るって? 出してやるさ」。ナイジェリアの過激派組織「ボコ・ハラム」がインターネット上で流す新兵募集のメッセージは、どんどん拡散されている。

※ナショナル ジオグラフィック7月号「岐路に立つ砂漠の国ニジェール」では、紛争地域に囲まれながらも安定化を図ってきた西アフリカのニジェールが抱える難題をレポートします。

文=ロバート・ドレイパー/ジャーナリスト

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