アフリカ、カメルーン南西部にあるコンピア村の熱帯雨林。ノエル・ナケレ・ドボ・ンコウリさんがなたを振り回し、生い茂るつるを切って道を開いていく。ンコウリさんは数メートルごとに立ち止まると、赤土に穴を開けて黒檀(コクタン、エボニー)の苗木を植え付ける。黒檀は、彫刻やピアノの鍵盤、家具のアクセント、弦楽器の指板(ネックの表面に張った板)として珍重されている漆黒の木材だ。
ンコウリさんをはじめ、一帯の村人たちは2018年から、5000本以上の黒檀を植樹している。木材として利用できる大きさに育つまでには100年かかるが、ンコウリさんは未来の世代のための投資と考えている。カメルーンのあるアフリカ中部では、農業や樹木の伐採が原因で、森林が急激に失われている。
ンコウリさんらの森林再生プロジェクトは、意外なパトロンの支援を受けている。そのパトロンとは、ミュージシャンのテイラー・スウィフトやジェイソン・ムラーズを顧客に持ち、アフリカの黒檀を大量に消費している米国のギターメーカーだ。
テイラー・ギターズは毎年16万本のギターを製造するメーカーで、すべてのギターの指板とブリッジにカメルーンの黒檀を使用している。そのテイラー・ギターズが、カメルーン内外の生態学者と提携し、2020年までに最大2万本の黒檀を植樹する手助けを行っているのだ。
プロジェクトの目的は、持続可能な木材調達に関するギター業界の意識の低さを改めること。2012年、ギターのトップメーカー、ギブソン・ギターは、マダガスカルとインドから黒檀と紫檀(シタン、ローズウッド)を違法に輸入したとして、米魚類野生生物局から60万ドル(約6500万円)超の罰金を科されている。今回のプロジェクトはカメルーンを代表する自然資源でありながら、大きな脅威にさらされている黒檀を復活させるためのモデルケースとして、世界資源研究所、米国務省、世界銀行の森林専門家たちにも注目されている。
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