賢くて愛情に溢れ、霊長類にも匹敵する複雑な社会をつくる、アフリカで最も成功している肉食動物。
ジャングルの王、ライオンと思われるだろうか? 違う。ハイエナだ。
ハイエナは長らく、頭が鈍く、不気味に笑う、大食漢の腐肉食動物と誤解されてきた。「イメージ戦略が大失敗しています」と、タンザニアのンゴロンゴロクレーターでブチハイエナを研究する、ドイツ、ライプニッツ野生動物研究所のアルジュン・ディール氏は言う。
「ハイエナの研究をしていると言うとみんな、えー気持ち悪い、なんで? という生理的嫌悪感を示すんです」
そうなるのは、ハイエナが文学作品や民話の影響で昔から「人々の心にハイエナに対する根深い嫌悪が植え付けられて」いるからだとディール氏は言う。
アリストテレスはハイエナについて、「腐った肉を非常に好む」と説明し、作家ヘミングウェイは「自らの死体を貪り食う、両性具有のやつら」と決めつけた。古代ローマの博物学者、大プリニウス(ガイウス・プリニウス・セクンドゥス)は、ハイエナは魔法のように他の動物をその場に凍り付かせることができると書いた。
このような悪評が積み重ねられた歴史ゆえ、大衆文化の中でも似たような描かれ方をされてきたのも無理はない。日本で8月9日に全国公開されるディズニーの新しい映画『ライオン・キング』でも、やはりブチハイエナは、悪役スカーを取り巻く脇役トリオとして登場する(米ウォルト・ディズニー・カンパニーは米ナショナル ジオグラフィックパートナーズの筆頭株主です)。
最も悪しざまに言われてきた種は、アフリカ東部から南部にかけて生息するブチハイエナだ。しかし、4種いるハイエナがひとくくりにされてしまうことも多い。最も数が少ないカッショクハイエナはアフリカ南部に、一夫一婦制で昆虫食のアードウルフは東部と南部に、そして最も小型で研究が進んでいないシマハイエナは、アジアからアフリカ北部にかけてまばらに生息している。
ディール氏が言うには、ネガティブなイメージが広まったのは、人々の恐怖心と知識不足、そしてハイエナの変わった外見が主な原因だ。
しかし、今こそ、そうした思い込みを正す時だと彼は言う。
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