アメリカ古代文化の中心地で発掘された土器を改めて分析したところ、「土器製作は女性の仕事」とされてきたこれまでの常識を覆す結果が得られた。6月3日付けで学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表された。
米ニューメキシコ州北西部に位置するチャコ・キャニオンは、西暦800~1200年頃、重要な文化と宗教の中心地だった。ここに住んでいた古代プエブロ人は、粘土を太い縄のようにして、らせん状にぐるぐると巻いて器の形にする「波状文様土器」を作っていた。
1000年前、こうした土器は女性が作っていたと一般的に考えられていた。というのも、もっと現代に近いチャコ・キャニオンでも、土器製作は主に女性の役割だったためだ。
「現代のプエブロ女性たちは土器を作り、その作り方を娘たちに伝えてきました。ですから、はるか昔の祖先もそうだったのだろうと思い込んでいました」。論文を執筆した米ノースフロリダ大学のジョン・カントナー氏は、そう語る。「けれど、実際には誰が作っていたかを直接見ることはできませんから、考古学者たちも腑に落ちずにいたのです」(参考記事:「古代プエブロに母系支配者、「世襲」の起源に光」)
波状文様の土器は、親指と人差し指で粘土と粘土を挟んで貼り合わせていたので、粘土には製作者の指紋が残されている。これらの指紋を分析すれば、製作者の性別がわからないだろうか。
論文共著者で、カントナー氏の教え子だったデビッド・マッキニー氏は、そう質問した。マッキニー氏は当時、警察署で働いていた。そこでカントナー氏は、男女の指紋の違いを調べるため、法科学捜査に乗り出した。指紋の隆線が男性の場合は女性よりも9%太いという過去の研究結果を用いて、チャコ・キャニオンのブルーJという発掘現場で出土した985個の土器の欠片を分析した。(参考記事:「真犯人を追う 科学捜査」)
その結果、47%の欠片に残されていた指紋の隆線の幅が、平均して0.53ミリで男性のものと分類され、40%が平均して0.41ミリで女性または子どものものと分類された。残りの12%はその中間で、「性別不明」とされた。