米スペースX社のイーロン・マスク氏が思い描くようにことが運べば、近い将来、夜空には新たに約1万2000個の「星」が輝きはじめることになる。
星といっても、同社が計画する巨大通信衛星網「スターリンク」の人工衛星が反射する光だ。スターリンクは、これまで電波が届かなかった僻地や、航空機、船舶、自動車が地球上のどんな場所にいても高速ブロードバンドを利用できることを目指している。完成は2020年代中頃としている。(参考記事:「スペースX新宇宙船、米国が自力の有人飛行へ前進」)
すでに計画は動き出している。2019年5月23日には、スペースX社のファルコン9ロケットが60基のスターリンク衛星を軌道に運んだ。配備後、一企業が夜空の見た目を一方的に変えてしまうことは倫理面で問題だという批判の声が上がった。
マスク氏は当初、人工衛星に気付くことなどないはずと請け合っていたが、現在、同社の衛星群の姿は世界各地で観測されている。通信衛星群が私たちの頭上をいつどこで通過するかを計算できるオンライン追跡サービスまで登場した。(参考記事:「天の川見えない人口、欧州60%、北米80%」)
天文学者たちは、スペースX社の人工衛星が地上からの天体観測に及ぼす影響や、ただでさえ混雑している軌道環境に冷蔵庫サイズの小型人工衛星が配置されることに懸念を表明している。
そこで、スターリンク計画がどんなものなのか、同様のプロジェクトは見慣れた夜空の眺めを台無しにするのかを、整理して考えてみたい。
マスク氏のスターリンク計画とは?
まずはマスク氏の考えるスターリンク計画をおさらいしてみよう。マスク氏は、高度350kmから1150kmの地球低軌道に、約1万2000基のスターリンク衛星を打ち上げる予定だ。この通信衛星は、クリプトンを燃料とする姿勢制御用ロケットを90分おきに点火して目標の軌道まで上昇してゆく。今後1年で約720基の人工衛星を投入する予定だ。
計画通り通信衛星が軌道上に配備されれば、世界のどこにいても、途切れることのない高速インターネットサービスが利用できるようになるという。 (参考記事:「億万長者たちの宇宙開発競争 勝つのは誰?」)
通信衛星網はどのようにして働くの?
通信衛星の個々の重さは約230キロで、動力は太陽光発電でまかなう。人工衛星同士は光と電波の両方を使って通信する。空が見えるところであれば、地上から通信衛星を経由した高速インターネット通信が可能になる。現在でもイリジウム衛星などがあり通話や通信が可能だが、スターリンクは遅延が生じない高速インターネットサービスを提供可能とするのが特徴だ。