長く続いたモザンビーク内戦の間に、ザンベジ・デルタからはほぼすべてのライオンが姿を消した。2018年、南アフリカから運ばれてきた24頭のライオンは、15年間で500頭にまで増える可能性があるという。(PHOTOGRAPH BY AMI VITALE, NATIONAL GEOGRAPHIC)
その昔、ザンベジ川が流れるアフリカ、モザンビーク中央部の緑豊かな湿地帯に、トゾと呼ばれる狩猟民族が暮らしていた。村から少し離れた沼地にはバッファローが群れをなし、森にはゾウの足音が響き渡り、氾濫原ではライオンの群れが獲物を狩っていた。村を率いていたのは、偉大なる長のガラングイラだった。
ある日、近隣の部族が大軍を送り込んできた。槍を持った12人の戦士がガラングイラの家を襲撃する間、残りの兵は近くで待機した。ガラングイラは勇敢に戦い、10人の敵を殺したが、あとふたりを倒すことができなかった。ガラングイラは槍を捨て、腕を上げて心臓の場所を示すと、さあ殺せと敵に告げた。敵の槍に貫かれて、ガラングイラは倒れた。
ふたりの戦士がその場を去ろうとしたとき、突然、ガラングイラの体から大きなライオンが現れ、彼らの前に立ちはだかった。恐怖にかられたふたりの戦士は自軍の元へ逃げ帰り、不思議なライオンとトゾの人々の力について報告した。
彼らの軍は、二度とトゾの村には現れなかった。
「ガラングイラの精霊のライオンは、今も近くにいて、わたしたちを守っています」。自宅の背後に広がる深い森の方を手で示しながら、ジョルジェ・トゾ氏はそう語る。彼はトゾ村の現在の長であり、ガラングイラの玄孫にあたる。
ジョルジェ・テネンテ・トゾ氏は歴代の長のひとり。彼はこの日、村人たちに24頭のライオンの導入計画を説明するという責務を抱えていた。ライオンの再導入にあたっては、村の安全を優先しなければならない。難しい課題だ。(PHOTOGRAPH BY AMI VITALE, NATIONAL GEOGRAPHIC)