今回の研究は、数万年にわたってアジアおよびヨーロッパに生息していたウマ278頭のDNAを調査したデータを元に、家畜ウマの進化の歴史を詳細に明らかにしている。論文によると、人間は紀元7世紀から、特定の形質を持つ個体を得るために、ウマを選択的に繁殖させてきた。家畜化はしかし、これよりもずっと早い時期に始められたと考えられる。
同論文は、遺伝学者、考古学者、古生物学者、統計学者、コンピューター・サイエンティストを含む121人の科学者の協力を得てまとめられた。
「このプロジェクトでは、過去5000〜6000年の間に行われてきたウマの家畜化と管理についての遺伝的な歴史を、すべて明らかにしようとしました」と、オーランド氏は言う。(参考記事:「ネコは自ら家畜化した、遺伝子ほぼ不変、最新研究」)
ニード・フォー・スピード
ウマといえば多くの人がウマの足の速さを連想するだろう。ほかの家畜と比べれば、確かにウマはそもそも足が速い。しかし、さらに足を速くする特性がゲノムに追加されたのは、比較的最近であることがわかった。
オーランド氏らは、過去数千年の間に発生した、ウマの足を速くする遺伝子の変異を特定した。「この結果は、それよりも古い時代のウマは、より耐久性に優れていたことを示唆しています」。つまり、マラソンの選手と100メートル走の選手の違いのようなものだ。
その能力が特に強化されたのは、約200年前のことだという。これは繁殖を行っていた者たちがごく少数のオス馬だけを使ったためだと、オーランド氏は言う。おかげでウマはより速く走れるようになったが、極端な繁殖方法が採られたことにより、遺伝的多様性は14~16パーセント減少したと、論文の主執筆者で同じくCNRSの分子考古学者であるアントワーヌ・ファヘス氏は述べている。
「ウマの遺伝的多様性にこれほど大きな影響を与えた出来事は、歴史上類を見ません」
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