プラスチックの大量消費国が、その廃棄物を他国に押しつけることが今後、難しくなる。
有害廃棄物の国際的な移動を規制する「バーゼル条約」の改正案が、スイスのジュネーブで開かれた締約国会議で5月10日に採択されたためだ。改正案は、他のゴミが混じった廃プラスチックを規制対象に加えるというもので、180を超す国が合意した。
今回の条約改正により、汚染されていたり他のゴミと混じったりしてリサイクル不可能な廃プラを輸出するには、事前に相手国政府の同意を得なければならなくなる。国連の推計によれば、世界の海にはすでに1億トンものプラスチックごみが流出している。危機的な状況にあるプラスチック汚染を世界全体で食い止めるうえで、今回のような措置を義務づけることは大きな前進になる。(参考記事:「魚を育む「潮目」に大量のマイクロプラスチック」)
調査団体、国際環境法センター(CIEL)のデイビッド・アズレー氏はインタビューで、今回の取り組みは「国際的なリーダーシップのありようが、いかに意欲的かを示すものです」と述べている。
行き場を失ったプラスチックごみ
廃プラの輸出が問題になったのは2017年のこと。世界最大の受け入れ国だった中国が生活由来の廃プラの輸入を禁止したため、2000億ドル(約22兆円)規模に達した世界のリサイクル産業が大きく揺らいだ。2018年に学術誌『Science Advandes』に発表された論文によれば、中国の輸入禁止により、2030年までに1億2000万トンを超す廃プラが行き場を失うという。
この結果、大量の廃プラが東南アジアのタイ、マレーシア、ベトナム、インドネシアなどに向かうことになったが、すぐに各国の処理能力を超えてしまった。港で荷揚げを阻止する措置を取った国もある。一方、英国などの欧州諸国や米サンフランシスコの埠頭には、廃棄物輸出業者が新たな買い手国を探している間に、プラスチックごみが積み上がっていった。(参考記事:「「世界の廃プラ処理場」は中国から東南アジアへ」)
廃プラの世界最大の輸出元は欧州連合(EU)だが、単一国としての輸出量が最も多いのは米国である。米国はバーゼル条約を批准していないが、この新たな規制により、米国が開発途上国に廃プラを輸出するのは実質的に難しくなるかもしれないと、アズレー氏ら条約改正交渉の出席者は期待する。(参考記事:「使い捨てプラスチックの削減を、米版編集長が声明」)
米国化学工業協会の広報は、米国が廃プラを受け入れてくれそうな国と個別に交渉することは可能かもしれないが、条約改正により「取引のハードルが上がる」と述べている。