「兵馬俑の武器にハイテク」説は間違いだった

2200年前の青銅の武器464点を分析、さび止め加工はなかった

2019.04.11
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兵馬俑は、死後の世界で秦の始皇帝に仕えるために作られた。(PHOTOGRAPH BY IRA BLOCK, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
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 もし、あなたの家の蛇口が光沢のある銀色だったら、おそらくクロムめっきが施されているだろう。このさび止め技術の実験は、19世紀にヨーロッパで始まった。しかし40年ほど前から、研究者やメディアの間では、クロムめっきの起源について別の仮説が広まっていた。クロムめっきは、紀元前3世紀の中国で発明されており、秦の始皇帝陵に兵馬俑とともに埋葬されていた青銅の武器のさび止めに使用されたという説だ。兵馬俑の遺跡がある西安の博物館でも、こうした説明が表示されている。(参考記事:「4.8億円相当、兵馬俑の親指を盗んだ男を逮捕」

 この仮説が登場したのは、世界遺産にも指定されている始皇帝陵が発見された1970年代だ。発掘作業の初期、出土した青銅の武器の保存状態が優れているのは、表面処理のおかげだと示唆する報告があった。そこで中国の科学者たちは当時最先端だった組成マッピングという分析法を用い、1つの小さな試料からクロムの層を見つけ出した。研究者たちによれば、クロム酸塩の溶液に浸された可能性があるという。これはクロメート処理と呼ばれる手法で、厳密に言えば、金属のクロムを使用する現代のクロムめっきとは異なる。(参考記事:「兵馬俑3次調査、鮮やかな彩色を再現」

 だがいずれにせよ、2000年以上前の秦朝においては革命的な技術だった。しかし、2019年4月4日付けで学術誌「Scientific Reports」に発表された論文によれば、実際はどちらの手法も用いられていないことが判明したという。(参考記事:「兵馬俑の職人、ギリシャ人芸術家が訓練か」

武器464点を詳細に分析

 英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンと中国、秦始皇帝陵博物院の研究者から成るチームは、SEM-EDS(走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法)と携帯型の蛍光X線分析装置を使用して、青銅の矢尻、矢柄、やりの石突き、剣の刃と装具、弓の引き金など464点を調査した。走査型電子顕微鏡によって、金属の表面構造を鮮明に観察でき、蛍光X線分析で化学組成がわかる。試料が多かったおかげで、クロムがどこに存在し、どこに存在しないかを見極めることができた。(参考記事:「驚き!電子顕微鏡で見た昆虫、寄生虫 写真18点」

研究者たちは、青銅の武器が2000年以上も朽ちなかったのは、クロムめっきによって保護されていたためだと考えてきた。(PHOTOGRAPH BY O. LOUIS MAZZATENTA, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
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次ページ:クロムが使われていた場所は

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