今回の研究ではまず、5匹の成熟前のサルそれぞれから1つずつ精巣を採取し、小さく分割して冷凍保存し、サルが成熟するまで5~7カ月待った。そうして成熟したサルからふたたび精巣を摘出後、摘出したばかりの精巣片と冷凍保存していた精巣片を、サルの皮膚下に移植した。

 目的は、組織を元の体に戻すことで、天然ホルモンにより成熟させることだとオーウィグ氏は言う。8~12カ月後、移植した精巣組織39個の摘出に成功した。そのすべてが十分に成熟し、精子を作る能力があった。その後、摘出した移植片の大半から精子を採取できた。

「多くの研究者はここで、『我々は精子を得ることに成功した』と言って終わりにしてしまいます」とオーウィグ氏は話す。「しかし、ただ精子があるということと、受精したり赤ちゃんを作ったりできるということは、イコールではないのです」

生まれて2週間のグレイディ。タオルを抱きしめ、目を大きく開けている。(OHSU)
生まれて2週間のグレイディ。タオルを抱きしめ、目を大きく開けている。(OHSU)
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 そこで今回の研究では、米オレゴン国立霊長類研究センターの研究者たちが、得られた精子を使ってサルの卵子を体外受精させ、受精卵11個を成体のサル6匹に移植した。その結果、健康なメスの赤ちゃんが誕生した。グレイディである。(参考記事:「絶滅寸前のサイ、冷凍精子でハイブリッド胚を作成」

「患者の人生の可能性を奪ってきたのです」

 非常に興味深い結果だが、人間に適用するには注意が必要だ。まず、この方法は例えば、精巣に悪性腫瘍ができるようながんの場合、適用できない。

 また、この方法で生まれた子どもへの後の影響についても、懸念が残る。グレイディの誕生から数カ月、その行動や成長は、今のところ正常だ。しかし、精子の染色体を詳細に調べ、遺伝子やその発現に意図せぬ影響が出ないことを確かめる必要がある、とウィンズ氏は強調する。(参考記事:「ヒトの精子のしっぽに謎のらせん構造、初の発見」

「たとえ引き続きやるべきことがあるとしても、今日にも臨床応用できる技術だと、私ははっきりと確信しています」と、オーウィグ氏は話す。

 確かに今が臨床試験の時期なのかもしれないと、ドイツ、生殖医療・男性科センターのニーナ・ノイハウス氏とシュテファン・シュラット氏も同意する。二人は同じサイエンス誌に、今回の研究についての見解を示す論文を執筆した。体外受精の技術は人間の方が確立されているため、出生率はサルの実験よりも高くなる可能性が高い、と両氏は指摘する。

 個人的な見解で、この分野の全員が同じ意見なわけではないとしつつ、オーウィグ氏は話す。「適切な安全性と実現の可能性を実証した以上、できるだけ速く臨床段階に移行し、病院で待つ患者にこの治療法を届けることが、私たちの責任です」

 一方で、若い患者とその家族は、がん治療が将来の生殖能力に与える影響について話し合う必要がある、と同氏は強調する。そうすることなく、「私たちは、彼らが期待した人生の可能性を奪ってきたのです。これはなすべきことであり、がん患者やがんを克服した人と、その家族が本当に望んでいることだと、私は心の底から信じています」(参考記事:「妊活するなら脱「週末の夜更かしと朝寝坊」」

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