記憶とは何か―脳はどう覚え、保ち、失うのか

期間、意識や感情の関わりなど、さまざまな記憶の種類とメカニズム

2019.03.14
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なぜものを忘れるのか

 私たちがどのようにしてものを記憶するかを理解するには、なぜものを忘れるのかという研究が参考になるだろう。記憶を失ったり、新しい記憶をつくれなくなったりする健忘症を研究するのはそのためでもある。健忘症は通常、けがや脳梗塞、脳腫瘍、アルコール依存症などにより、脳に何らかの外傷が加えられたときに発症する。

 健忘症には大きく分けて2種類ある。「逆行性健忘」では、脳への外傷が起こる前の記憶を失い、「前向性健忘」では、外傷によって新しい記憶を形成する能力が劣化したり、失われてしまう。

ギャラリー:先端技術で見えた脳の秘密(写真クリックでギャラリーページへ)
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脳スキャナのセンサーがつけられたヘルメットをかぶるエンジニア。マサチューセッツ総合病院マルティノス生物医学画像センターで。(PHOTOGRAPH BY ROBERT CLARK)

 前向性健忘で最も有名なのは、ヘンリー・モレゾンの症例だろう。生前はHMとしてしか知られていなかったモレゾンは、重度のてんかん患者だった。最後の手段として、1953年に海馬を含む内側側頭葉を切除する手術を受けた。術後、子ども時代のことはよく覚えていたが、新しい宣言的記憶を形成できなくなっていた。周囲の人々は、たとえ数十年間の付き合いになっても、モレゾンと会うたびに自己紹介をしなければならなかった。(参考記事:「記憶障害になると人は実際にどうなるのか」

 科学者は、モレゾンのような患者や、様々な種類の脳障害を持つ動物を研究することで、異なる種類の記憶が脳のどこでどのように形成され、蓄えられるかを追跡できるようになった。短期記憶と長期記憶、宣言的記憶と非宣言的記憶は、どれも同じように形成されるわけではないようだ。

 脳の中では、全ての記憶が1カ所に集まっているわけではない。脳の異なる部分に異なる種類の記憶が形成・保存され、それぞれに異なるプロセスが関わっているようなのだ。例えば、恐れなど感情的な反応は脳の扁桃体(へんとうたい)に保存される。修得した技術は線条体(せんじょうたい)に保存され、海馬(かいば)は、宣言的記憶の形成、保持、想起に欠かせない。(参考記事:「手痛くフラれた経験は忘れないのに、英単語をすぐに忘れるのはなぜ?」

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