世界屈指の荒れた海に、普通のシャチとはだいぶ違った幻のシャチがいる。「タイプD」と呼ばれるシャチだ。
このほど初めて、科学者たちが野生のタイプDに接触し、調査することに成功した。米海洋大気局(NOAA)の研究者ロバート・ピットマン氏は、このシャチは新種である可能性が「非常に高い」と言う。
科学者チームがこのシャチの群れに遭遇したのは2019年1月。場所は、南米の最南端にあたるチリのホーン岬から約100kmの、ピットマン氏いわく「世界で最悪」の荒れた海域だ。
タイプDのシャチの存在はこれまでも知られていた。ただし、1955年に大量座礁が一度あったほか、アマチュアによる写真や映像、漁師の証言などがあるだけで、鯨類の専門家が野生下の個体に遭遇したことはなかった。普通のシャチとは違い、タイプDのシャチは頭部が丸く、背びれは尖って幅が狭く、アイパッチと呼ばれる目の上の白い模様が非常に小さい。体長も数十センチ小さいようだ。(参考記事:「新種?「タイプD」のシャチ、初の水中映像」)
調査船に乗り込んだ研究チームは、最近漁師たちがタイプDらしきシャチを見かけたという海域に投錨した。1週間以上が経過したとき、ついに25頭ほどのシャチの群れが近づいてきた。
科学者たちは水中と水上からシャチを撮影し、無害な手法で皮膚と脂肪の小さな断片を採取した。今後シャチのDNAを調べることにしていて、これによりタイプDが新種かどうかが確定する(現在は、サンプルをチリ国外に持ち出すための輸出許可証の発行を待っているところだ)。(参考記事:「希少なシャチ“タイプD”、実は新種?」)
シャチたちは人間や船に興味をもったようで、2時間ほど船のまわりに集まっていた。研究者が水中に投入した水中聴音器を熱心に探っていたが、一度も発声しなかったという。
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