骨の難病と闘った女性、願い叶い博物館の展示に

筋肉などが骨になる病気「進行性骨化性線維異形成症」を知っていますか?

2019.03.06
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骨をつくる仕組みが過剰に働く

 FOPが初めて記録されたのは、1740年。英国の外科医、ジョン・フリークが、脊椎骨と肋骨の周りの大きな腫れに苦しめられていた14歳の少年を診察したときのことだ。「それが背中の様々な場所で固まっている様子は、サンゴが広がっているのに似ていて、まるで骨に固定された胴着のようだ」とフリークは書いている。

 今日、FOPは外傷などによって誘発される神経炎症反応だということがわかっている。幹細胞にある骨の形成経路が過剰に活性化されるのだ。2006年、ペンシルベニア大学医学大学院で整形分子医学分野を率いるフレデリック・カプラン氏と、ペンシルベニア大学の遺伝学者アイリーン・ショア氏は、FOPの原因を発見した。骨の形成を誘導するたんぱく質アクチビンAの受容体の異状だった。

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「患者の体内では、膜状、リボン状、プレート状の骨が作られ、これにより関節が固まって動けなくなってしまいます」とカプラン氏は話す。この病気により、場合によっては骨が平均より軽くなってしまうこともある。どうやら、オーゼルの場合はこれに当てはまりそうだ。

「彼女の骨は、本当にデリケートです」と、法医学人類学者であり、ムター博物館の学芸員でもあるアンナ・ドーディー氏は話す。「私たちはこの骨を、誰かが綿菓子を少し固めたようなもの、というふうに思っています」

 FOPでは、徐々に痛みと制約が増してゆく。固くギザギザとした突起が軟組織に食い込み、時間とともに患者の体勢を固定してしまう。それでも、支援プログラムや様々な技術、そしてケアテイカーたちの助けによって、患者は有意義な人生を送ることができる。

 たとえばオーゼルは「猛烈な生き方をしていましたよ」と、フィラデルフィアのイングリス・ハウスで応用技術プログラム責任者を務めるドーン・ウォーラー氏は言う。身体障害者のためのこの長期滞在型ケアホームは、オーゼルが36年間暮らした場所だった。

 彼女は街中を車椅子でまわり、美術館を訪れたり、洋服を買いに出かけたり、友人とワインを楽しんだりした。彼女はアクセサリーが大好きだった。イヤリング、ネックレス、ブレスレット、指輪、そしてティアラまで持っていた。彼女が集めた大量のアクセサリー・コレクションは、本人の骨格の隣に展示される予定だ。また、FOP研究の推進者であり教育者でもあった彼女は、ペンシルベニア大学医学大学院の新入生に向けて講演を行い、1992年には同大学のFOP研究施設の開所式でテープカットも行っている。(参考記事:「早老症患者サム君の短くも輝かしい生涯」

 とはいえ、FOPは命に関わる病だ。死因の多くは心不全や呼吸不全である。よろいのような骨に締め付けられて、心臓や肺が機能できなくなってしまう。FOP患者の平均寿命は56歳。最後の3年間、オーゼルはほとんどの時間をベッドの上で過ごすことを余儀なくされ、関連した神経筋疾患で亡くなった。

 現在、ラパマイシン、アンチ・アクチビンA、そしてパロバロテンという3種類の薬が臨床試験中だ。「それぞれが、骨の形成過程の異なる部分に働きかけます」とカプラン氏は説明する。

次ページ:異状は骨の形成だけではなかった

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