なぜエルサルバドルの人々は米国への逃亡を選ぶのか

北へ向かう人の波は今なお止まず

2019.03.02
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エルサルバドル北部にあるチャラテナンゴの刑務所。狭い雑居房に詰め込まれているのは、犯罪組織「MS-13」のメンバーだ。対立する組織ごとに刑務所を別にして暴動を避けているが、収容者が多過ぎて定員超過になっている。PHOTOGRAPH BY MOISES SAMAN

 中米のエルサルバドルで、暴力が日常化している。長く続いた内戦で噴出した社会の対立が、いまだに尾を引いているのだ。

 1980年、貧困層から土地を奪ってきたエリート層と軍事政権に対し、極左ゲリラが蜂起した。泥沼化した内戦が1992年に終結するまでに、死者は7万5000人、家を失った人は100万人を超え、数十万人が米国へ逃げた。彼らは全米各地で職を見つけ、横のつながりをつくり、本国に送金した。

 そんな移民の子どもたちが、ロサンゼルスで犯罪組織マラ・サルバトルチャ、通称MS-13を結成した。すでにあったライバルのバリオ18に入る者も多かった。組織間の抗争はしだいに激化。警察の取り締まりも厳しくなった。ついには法律が改正され、犯罪歴をもつ移民の国外退去処分が容易になると、1990年代後半には、中米に送り返される犯罪者は年間数千人にのぼった。すると彼らは、政府の力が弱く、貧困も深刻な本国の状況につけ込み、独自の社会と規則をつくって、組織を急速に広げていった。

殺人発生率は人口10万人当たり61人

 エルサルバドル政府によると、こうした犯罪組織に関わる人間は推定で6万人。組織間の覇権争いは、人口640万人の小さな国に深い亀裂を生み、分断は広がるばかりだ。2017年の殺人発生率は、人口10万人当たり61人にのぼっている。

 過激な暴力と貧困に絶望し、エルサルバドルをはじめ中米諸国から米国へ逃げ出す者が続出した。そこでは何世代も前から中米の人々が移住し、犯罪に関わることなく、尊厳をもって暮らせる安全な社会を築いていたからだ。しかし、あまりに移民の流入が続くことから、米国政府は今、エルサルバドル人の大量送還をちらつかせている。

 現在、米国内では約20万人のエルサルバドル人に一時保護資格(TPS)が与えられている。武力衝突や大規模な自然災害で、本国に戻ると危険がある場合、ビザがなくても滞在が許されるというものだ。

 2018年1月、米国政府は19年9月をもってエルサルバドル人のTPSを打ち切ると発表したが、これに米連邦地方裁判所が待ったをかけた。最終決定までは米国で生活し、仕事ができるという仮処分命令が下ると、メキシコとの国境付近には大量の移民が押し寄せた。

 ドナルド・トランプ大統領の「不寛容」移民政策により、南西部の国境で移民の家族がばらばらになって拘留されるケースも増えた。だが、犯罪組織による敵対組織や当局との終わりのない報復合戦のあおりを受け、北へ向かう人の波は止まらない。エルサルバドルだけでなく、グアテマラやホンジュラスも同様だ。2018年秋には、中米諸国から5000人を超すキャラバンが米国に向けて移動を始め、この問題は再び世界の注目を集めた。

※ナショナル ジオグラフィック3月号「暴力が巣くう国の行方」では、暴力と貧困に疲弊する中米エルサルバドルをレポートしています。

文=ジェイソン・モトラー/ジャーナリスト

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