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ロンドン東部のレッドブリッジ周辺に広がるグリーン・ベルト。こうした緑地の大半は私有地で立ち入りが禁じられているが、その一部を開発すべきだとの意見もある。PHOTOGRAPH BY LUCA LOCATELLI

 ロンドンは現在、かつてないほど豊かな大都市になった。人口は880万人で、2050年までには、さらに200万人増える見込みだ。英国の首都は国際金融センターを有するグローバル都市に変貌した。

 経済成長は建設ブームに火をつけた。現在、欧州で最大規模の再開発プロジェクトが、ロンドンで進行している。テムズ川の地下では大型の下水路が掘削中だし、川の周辺では500棟を超える高層ビルが建設される予定だ。さらに、世界最古の地下鉄網の混雑を解消するため、総工費2兆円を超す高速地下鉄道「クロスレール」の整備が進む。2019年にはロンドンの東西を結ぶ「エリザベス線」が開通する。

 寂れた工業地区も、再開発で生まれ変わろうとしている。その代表がキングス・クロス駅の周辺だ。売春や麻薬取引が横行する界隈として知られていたが、20年かけて化粧直しが進められてきた。その中身は、キングス・クロス駅と隣接するセント・パンクラス駅の全面改修、芸術大学の新キャンパス開設、音楽施設や噴水、住宅の建設などだ。さらに、グーグルやフェイスブックといったIT大手の大規模なオフィスビルが建設される予定になっている。

 だが、繁栄に伴って、ロンドンではさまざまな問題が生じ、それらが深刻になるにつれ、この都市の魅力が損なわれつつあると感じている人も多い。まず交通渋滞がひどい。大気汚染によって、子どもや高齢者の間にぜんそくで命を落とす例が急増している。

 また、地価の上昇が住宅価格を押し上げ、中間層の市民だけでなく、高収入の専門職の人々でさえ、家を買うことができない。手頃な価格の住宅を求めて、郊外へ引っ越さざるを得ない状況だ。その一方でロシアの新興財閥やサウジアラビアの大金持ちがロンドンの中心部で豪邸を所有するようになった。もはやロンドンは普通の人々が暮らす街ではなく、不動産投資の対象に変わりつつある。

EU離脱でロンドンの運命は?

 2016年に当選を果たしたロンドン市長のサディク・カーンは、パキスタン人のバス運転手の息子だ。カーン市長は暮らしやすい町づくりのため、ロンドンが抱えるさまざまな問題に精力的に取り組んでいる。そんな市長にとって最も大きな課題は住宅問題だ。選挙戦でカーンは、この市長選は住宅問題を争点とする住民投票でもある、と訴えた。

 就任後、現在の人口増加に対応するには、最低でも毎年6万6000戸の新たな住宅が必要だと発表し、その半数を「普通の市民が買える価格」で供給すると約束した。だが実際のところ、市内に33ある大半の行政区では、目標を35%に下げた。

 そこに、ロンドンの運命を逆転させかねない事態が迫っている。ヨーロッパ連合(EU)からの離脱だ。これをきっかけに景気は後退するだろうという悲観論が高まりつつある。

 好景気は終わるだろうか? それとも試練を乗り越えて、ロンドンは金融センターとして、住みたい都市として、世界に君臨し続けるだろうか? あちらこちらで稼働する建設用クレーンを見る限り、この都市が切羽詰まった状況にあるようには思えない。悲観論は、ロンドンのDNAに埋め込まれた底力を過小評価している。

※ナショナル ジオグラフィック3月号「新時代のロンドン」では、再開発によって様変わりするロンドンをレポートしています。

文=ローラ・パーカー/英語版編集部