揺れない“幻の地震”が発生か、50日継続、トルコ

2016年夏に「スロースリップ」が起きていた可能性、大地震との関連は?

2019.02.15
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

幻の地震のとらえ方

 これだけ遅いと、わざわざ検出しようとしない限り、スロースリップを見つけるのは難しい。しかも地震波が生じないので、地震計では検出できない。地質学者がスロースリップに初めて気が付いたのは、地球表面の形の変化を記録するGPSのデータによってだった。

 今回の研究でスロースリップをとらえたのは、トルコのマルマラ海の掘削孔に埋められたひずみ計だった。周囲の岩石がゆっくりと変形していたのだ。加えて、ときどき断層に沿って動く微動からも、スロースリップを確認できる。

「すぐ上の階で、木の床の上を誰かが歩いているのにたとえると分かりやすいです」とブリュア氏は話す。「歩く人は見えませんが、木がきしむ音から動きを追うことができます」。そして、研究者が何に目を向ければいいのか分かると、間もなくスロースリップは世界中の沈み込み帯付近で起こっていることが判明した。(参考記事:「【解説】地球のプレート運動、14.5億年後に終了説」

「スロースリップはとても一般的であり、被害がない場合がほとんどです」とブリュア氏。

 例えばカスケード沈み込み帯では、マグニチュード6.0の規模として記録されるスロースリップが2~3週間続き、平均で15カ月おきに繰り返すことがある。その発生を知らせるウェブサイトまであるほどだ。同様のマグニチュードのものは、日本の琉球沈み込み帯の南西部・八重山諸島付近で5〜9カ月間隔で発生している。

 ニュージーランドには、スロースリップのホットスポットが2カ所ある。1つは首都ウエリントンの下で、マグニチュード7.0の地震に相当する規模のスロースリップが起こることもある。しかし、12~18カ月かけてかなりの深さで起こるため、住民は誰も気づかない。

 もう1つのホットスポットは、同国北島の北東端にある。ここでのスロースリップは比較的浅いところで起き、ウエリントンと同じような規模だが、ずっと奇妙だ。18カ月から2年ごとに、まるで時計仕掛けのようにスロースリップが繰り返される。ベル氏は「次にどこで起こるかがほぼ予想できる」という。地球科学者にとっては、絶好のタイミングで観測機器を設置する貴重な機会となる。

謎めいたメカニズム

 スロースリップの検出はパズルの1ピースにすぎない。これが不思議なこととされている事実自体が、現象の解明がいかに進んでいないかを表している。何がスロースリップの引き金になるのかを研究することは、「幻の地震」ハンターにとって最優先事項の1つといえる。

 だが、東北大学理学研究科地球物理学専攻の助教である加納将行氏は、今のところ「スロースリップは未だに解明されていない部分が多い」という。

 スロースリップは、私たちがまだ解明していない、断層の物質が持つ奇妙な力学的特性によって引き起こされるのかもしれない。あるいは、スロースリップが起こる断層は、高圧な流体下にある可能性もある。つまり滑りやすくなっているために、ゆっくりとしたペースで動けるということだ。これらの条件を再現した室内実験は、この説を裏付けるようにも思えるが、現実の大きなスケールでも当てはまるかはまだ分からない。

次ページ:東北地方太平洋沖地震の少し前にも始まっていた

おすすめ関連書籍

科学の誤解大全

答えはひとつではない

当たり前だと思ってきた科学の常識を覆す本。宇宙、物理、科学、人体などのジャンルで約40個の“事実”の間違いを解説する。〔全国学校図書館協議会選定図書〕

定価:本体1,300円+税

  • このエントリーをはてなブックマークに追加