今から約2億4000万年前、現在のドイツにあたる地域に、甲羅を進化させる前のカメがすんでいた。このカメの後足の骨には腫瘍があった。
がんの専門誌「JAMA Oncology」オンライン版に2月7日付けで発表された、この古代のカメの腫瘍に関する論文によると、最初の恐竜が登場した三畳紀にはすでに動物のDNAにはがんに至る変異があったことが示された。
今回の発見は非常に興味深い。なぜなら、「化石記録にがんが見つかることは信じられないほど珍しいからです」と研究チームを率いたドイツ、ベルリン自然史博物館の古生物学者ヤラ・ハリディ氏は言う。「ほとんどのがんは軟組織にできます。化石骨に軟組織の病変の痕跡が見られることは時々あるのですが、そこからがんと診断するのは非常に難しいのです」
研究チームは、この化石の腫瘍を骨膜性骨肉腫という骨のがんと特定した。論文の共著者で、ベルリン医科大学シャリテの医師で放射線科医でもあるパトリック・アスバッハ氏は、「ヒトの骨肉腫にそっくりに見えます」と言う。今日、米国では毎年約3450人が骨のがんと診断されていて、そのうちの約800~900人が骨肉腫だ。(参考記事:「整形外科の医師がゲノム研究者になった理由」)
「とっくの昔に絶滅した動物が、私たちがよく知る疾患に罹患していたとは、非常に興味深いことです。がんに苦しむのはヒトだけではないのです」とアスバッハ氏は言う。
カメの進化におけるミッシング・リンク
甲羅のないカメの仲間「パッポケリス・ロシナエ(Pappochelys rosinae)」は、2015年に初めて報告された。大きさはチワワほど。カメの体が背甲と腹甲に覆われるようになった過程は完全には解明されておらず、パッポケリスの発見は、その謎を解くためのカギになるものとして歓迎された。(参考記事:「甲羅進化の謎に迫る最古のカメを発見」)
約20点のパッポケリスの標本が発見されたのは、2008年のこと。場所は、ドイツのシュツットガルトから北東に80キロほどのフェルベルクという町の近くにある石灰石の採石場だった。化石はシュツットガルト国立自然史博物館に保管されている。
2018年の夏、この化石を調べていたハリディ氏は、1本の大腿骨に奇妙な膨らみがあることに気づいた。彼女はアスバッハ氏の協力を得て、マイクロCTスキャンを行い、化石骨の内部構造を調べてがんの種類を特定した。
このカメの直接の死因ががんだったのかどうかはわからないが、ヒトの場合には、骨肉腫は肺に転移することが多い。
「カメの肺に転移していたとすれば、天敵から逃げたり、餌を食べたりするのは困難になっていたでしょう。そうなれば最終的には死が待っていたはずです」とハリディ氏は推測する。
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