なぜ片時も手放せないのか

 スマホをほんのわずかな時間でも手放すことがこれほど難しくなった理由は、簡単に説明できる。「人をなにかに夢中にさせたかったら、相手に不規則なタイミングで報酬を与えることが効果的であるというのは、よく知られていることです」と、米ミシガン大学アナーバー校の心理学者、イーサン・クロス氏は言う。「これはまさしくEメールやソーシャルメディアがやっていることです。新しい『いいね』がいつもらえるか、次のメールがいつ来るかを知ることはできません。だからこそ、人は絶えずチェックし続けるのです」

 ローゼン氏らが高校生や若年成人を対象に行ったスマホ使用の追跡調査からは、スマホへの強迫的な執着がさらに悪化しつつある現状が見て取れる。スマホのロックが解除された回数を数えるアプリを使用して行われたこの調査では、被験者が1日にロックを解除する回数は、2016年の56回から、2018年には73回に増えていた。「これは大幅な増加です」とローゼン氏は言う。

 その原因の一部は通知機能にあるが、これはオフにしておくこともできる。もう一つ別の要因は「人の頭の中にある不安」だが、これも瞑想などを活用して対処することが可能だ。3つ目の、そしてより厄介な要因は、テクノロジー企業が「自社のアプリやウェブサイトに念入りな調整を加えて、人の目を引き、そこにとどまらせ、何度も戻ってくるようにしていること」だと、ローゼン氏は言う。

 こうした批判への対応として、携帯電話のメーカーは、スクリーンタイム(自分がスマホの画面を眺めている時間)をチェックできるアプリを開発している。しかし、アップルの「スクリーンタイム」やアンドロイド(Android)の「デジタルウェルビーイング」といったアプリが、ユーザーがスマホに費やす時間を短縮するうえで効果を発揮するかは不明だ。高校3年生を対象とした調査において、ローゼン氏は、被験者が実際、折に触れてスクリーンタイムをチェックするアプリを確認し、自分で思うよりも長い時間をスマホに費やしていると自覚したことを確認している。それでも約半数の学生は、自分の行動を変えなかったという。(参考記事:「「依存症で失ったもの」は治療で取り戻せる 」

 ローゼン氏は、自らもスマホに取り憑かれていることを認めている。彼はニュース中毒で、やたらと「アップルニュース」を開いてしまうという。「たいていは新しいニュースはないのですが、ときどき新着記事がアップされると、もっと頻繁にチェックしなければという気にさせられるのです」

 テクノロジーに溺れることなくこれと共生する方法を学ぶことは、デジタル時代にわれわれが直面する最大のチャレンジのひとつなのかもしれない。スマートフォンによって開かれた体験領域はいわば新たな生態系で、われわれはまだそこに適応しようとしている最中なのだと、クロス氏は言う。「オフラインの世界でも、オンラインの世界でも、かじ取りをするうえで役に立つものと有害なものとがあるのは同じなのです」

ギャラリー:自然に癒やされる(写真クリックでギャラリーページへ)
韓国の北漢山(プッカンサン)国立公園でハイキングを楽しみ、一休みする営業マンのホン・スンビン。山の向こうには、ストレスに満ちた現代生活の中心ともいえる首都ソウルの街が広がる。年間500万人ほどがこの公園を訪れる。(Photographs by Lucas Foglia)

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