スマホがあると退屈で集中力低下、海外の研究事例

恩恵と弊害、スマホとの共生は人間にとってのチャレンジだ

2019.01.30
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 スマートフォンの使用は、われわれの頭の中の地形をすっかり様変わりさせた。「過去6〜8年ほどの間に、大々的なパラダイムシフトが起こりました。以前は自分の周辺環境に振り向けられていた注意資源(注意力の総量)の多くが、今ではバーチャルなものにあてられるようになったのです」。米カリフォルニア州立大学ドミンゲスヒルズ校の名誉教授、ラリー・ローゼン氏はそう語る。

「これはつまり、人が自分の目の前にあるものに心を向けていないということです。親は自分の子供に注意を払っていません。人はもはや自分が見ているテレビにさえ注意を払いません。同時に別の画面を見ているからです。これはわれわれの生活のあらゆる側面に影響を与えており、残念ながら、こうした傾向はこの先さらに強まるだろうと私は考えています」

スマホが手元にあると集中力が低下

 研究者らは、スマホが人間の集中力に与える影響についての調査を始めている。米テキサス大学オースティン校の心理学者エイドリアン・ウォード氏は、800人の被験者に二種類の難しい精神作業を与える実験を行った。一つ目の課題は、ランダムに並んだ文字列を暗記しながら数学の問題を解くというもので、もう一つは、いくつかの選択肢の中から、視覚的な図形を完成させるための画像を選ぶというものだった。

 一部の被験者は、自分のスマホを別の部屋に置いておくように指示された。それ以外の被験者には、スマホをポケットに入れたままにしておくか、机の上に置いてもらった。スマホは課題をこなすにはなんの役にも立たないが、これがどれだけ手に取りやすい位置にあるかは、被験者の成績に影響を与えた。スマホを別の部屋に置いておいた人たちが、もっともよい成績を上げた。スマホを目の前に置いておいた人たちの成績は最低だった。スマホをポケットにしまっておいた人たちにも、認知能力の低下が認められた。(参考記事:「ゲーム、脳機能、そして社会の関係性」

 研究者らは、スマホへの依存が若いユーザーの読解力を低下させ、ひいてはそれが彼らの批判的思考に悪影響を与える可能性を危惧している。そうした懸念はいくつかの研究結果に基づくもので、たとえばノルウェー、スタヴァンゲル大学の心理学者アンネ・マンゲン氏は、10年生(日本の高校1年生)72人を2つのグループに分け、一方のグループには紙に印刷した二種類のテキストを、もう一方のグループにはスクリーン上のPDFで同じテキストを読んでもらうという実験を行っている。読解力をテストした結果、印刷したものを読んだ生徒の方が、デジタルでテキストを読んだ生徒よりもはるかに成績が良かった。

 またカナダ、ブリティッシュコロンビア大学のチームは、多くの人が体験を通して実感していること、つまり、スマホの使用は現実世界における社会的交流に悪影響を及ぼすことがあるという知見の裏付けとなる実験を行っている。心理学科の博士課程の学生であるライアン・ドワイヤー氏が主導したこの実験では、300人の被験者に、家族や友人とレストランで食事をしてもらい、一部の人にはスマホをテーブルの上に置いてもらい、それ以外の人たちにはスマホをどこかにしまっておいてもらった。スマホを目の前に置いていた人たちは、そうでない人と比べて、会話の最中に気が散らされる感覚を強く持ち、また食事を楽しいと感じる度合いが低かった。

「スマホが手の届くところにあると、人はより退屈だと感じることもわかりました。これは予想外の結果でした」とドワイヤー氏は言う。

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ギャラリー:脳科学で克服する依存症(写真クリックでギャラリーページへ)
仕事中に負傷し、鎮痛薬を処方されたことがきっかけで20年前からヘロインを常用するようになったジャナ・レイン。2016年には米国シアトルの高速道路の下で、テント暮らしをしていた。(PHOTOGRAPH BY MAX AGUILERA-HELLWEG)

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