米国、アフリカ系妊産婦の死亡率は白人の3倍

1990年以降、妊産婦死亡率が低下した先進国はセルビアと米国だけ

2018.12.29
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米国ジョージア州アトランタの自宅で、亡くなった妻キラの写真に囲まれ、息子たちと遊ぶチャールズ・ジョンソン4世(37歳)。PHOTOGRAPH BY LYNSEY ADDARIO

 米国では妊産婦の死亡率が一向に下がらない。出生数10万人当たり約14人の母親が命を落としている。

 世界保健機関(WHO)によれば、1990~2015年の間に妊産婦の死亡率が悪化したのは、46の先進国のなかではセルビアと米国だけだった(妊娠の終了から6週間以内に合併症で死亡した母親の数も含まれている)。

 ある憂慮すべき二つの統計データが、この問題を特徴づけている。米国疾病対策センター(CDC)によれば、アフリカ系米国人女性が妊娠に関連する原因で死亡する確率は白人女性の約3倍にのぼる。また、妊産婦死亡の60%以上は回避が可能なものなのだという。

 なぜ、アフリカ系米国人女性の妊産婦死亡率はこんなにも高いのだろうか。研究者たちによれば、アフリカ系、中南米系、先住民といったマイノリティーに属する人々は、経済的、または社会的に成功していたとしても激しいストレスを経験しており、それが彼女たちの身体的な健康を損なうことがあるという。

 米ミシガン大学で公衆衛生学の教授を務めるアーリーン・ジェロニマスは、このことを「風化作用」という概念で説明する。人種差別や偏見に長年さらされることによって、アフリカ系米国人は白人よりも早く健康を害するというものだ。また、医療関係者の潜在意識にある偏見が、黒人の妊産婦へのケアに影響している可能性についての指摘もある。

「優先順位の高い患者ではありません」

 アフリカ系米国人のチャールズ・ジョンソンは2016年4月、帝王切開の後に妻のキラを亡くした。異変に気付いたのは午後4時過ぎ。鎮痛剤が投与され、点滴が行われ、午後6時44分にはCTスキャンの検査依頼が出された。

 ところが、4時間が過ぎてもCTスキャンは行われなかった。キラは「青ざめ、ぐったりしていました。それに、震えを抑えられませんでした」と、チャールズは振り返る。病院のスタッフに、出血の原因を特定する作業は行われているのかと、繰り返し質問したという。

 しかし自分は微妙な立場だったとチャールズは振り返る。「父親として、また夫として、妻をどうしても守りたかったんです。でも、取り乱して一線を越えるわけにはいきませんでした。黒人男性なら、なおさら気をつける必要があります」。彼はキラの治療に悪影響を及ぼすようなことは一切したくなかったのだ。

 チャールズの不安げな問いに対し、ある病院スタッフがこう答えてからは、特にそう思えたという。「ご主人、今のところ奥さんは優先順位の高い患者ではありません」

 後にチャールズが提出した訴状によれば、CTスキャンは最後まで行われなかった。帝王切開から10時間後の午前0時半頃になってやっと、キラは手術室に運び込まれた。彼女の腹部は血液でいっぱいだった。夫への最期の言葉は「あなた、怖いわ」だったという。

※ナショナル ジオグラフィック1月号「出産で命を落とす現実」では、黒人の妊産婦の死亡率が悪化している米国の現状についてレポートしています。

文=レイチェル・ジョーンズ/ジャーナリスト

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