中国医学から生まれた薬ががんに効く可能性

中国の伝統医学を科学的に解釈する研究が増えている

2018.12.28
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
特集フォトギャラリー5点(画像クリックでリンクします)
中国雲南省にある研究センターでサンシチニンジン(三七人参)の育ち具合を調べる、米エール大学の鄭永齊(ジョンヨンチー)教授。鄭は伝統医学に基づいた生薬による治療を研究している。がん治療のために開発した薬は治験段階に入った。PHOTOGRAPH BY FRITZ HOFFMANN

 中国医学の文献の記録は、古くは紀元前3世紀までさかのぼる。人体を観察してその機能を分析し、生薬やマッサージ、鍼といったさまざまな治療に対する効果を記したのが始まりだ。それから2200年以上たつが、この間に知見が蓄積され、洗練されて、風邪から性病、麻痺からてんかんまで、あらゆる健康問題に対処できる知識体系ができ上がった。

 現在、中国の医師は近代の医学体系に基づいた教育を受け、免許を交付されているが、国家の医療体制には伝統医学もしっかり根づいている。病院のほとんどに、伝統医学の専門病棟が設けられているほどだ。習近平国家主席は、伝統医学は医療費を抑制しつつも高い治療効果が期待できるとして、国の保健政策の柱に位置づけている。そして、21世紀は中国医学の新たな黄金時代になると宣言した。

現代医学と中国伝統医学の融合

 米エール大学医学大学院で薬理学の教授を務める鄭永齊(ジョンヨンチー)はこれまで、科学の枠組みのなかで研究を続け、B型肝炎といった疾患の抗ウイルス薬の開発に取り組んできた。だがその一方で、クソニンジンのような薬草を使った古来の治療法にも光を当てたいと考えていた。そしてついに、がん治療を飛躍的に進歩させる可能性のある薬をつくり出したのだ。鄭は瓶の蓋を開け、ひとつまみの粉末を私の手に載せた。4種類の生薬を使った配合薬「PHY906」だ。

 鄭永齊の研究チームはさまざまな配合を試し、米国立がん研究所の監督の下、20年余りの歳月をかけてマウスの実験から患者への治験にこぎ着けた。すると、鄭の期待通り、配合薬を投与された患者はほぼ全員、吐き気や胃腸の不調が改善した。だがそれだけではなかった。薬を摂取していない患者よりも、化学療法で腫瘍が小さくなるのが早かったのだ。

 米スタンフォード大学の卒業生で経営学修士も取得している43歳の鄭培堃(ジョンペイクン)は、父である鄭永齊と共同で設立した会社で4種類の生薬を使った配合薬「PHY906」の販売と生薬製剤の開発を行っている。

 PHY906を投与されたマウスの腫瘍を調べると、白血球の一種で、がん細胞を食べるマクロファージが増加していることがわかった。鍵となっているのは、4種類の生薬の相互作用だ。「そこに可能性があるのです」と培堃は強調する。「PHY906には複数の化学物質が混ざっています。その意味では、エイズの治療で効果が明らかになった、薬の組み合わせ処方と似ていますね。私たちは古来の処方を学び、現代の科学的治療に当てはめているのです」

 これまでにPHY906は、大腸がん、肝臓がん、膵臓がんを対象に、化学療法や放射線療法と併用する形で8回治験が実施されている。

「PHY906は、複数の生薬を組み合わせた薬としては初めて、米食品医薬品局(FDA)に承認されるでしょう」と、培堃は見通しを語った。

※ナショナル ジオグラフィック1月号「中国医学の底力」では、現代の西洋医学の常識を覆す可能性を持った中国の伝統医学について紹介しています。

文=ピーター・グウィン/英語版編集部

  • このエントリーをはてなブックマークに追加