海軍の船長にまで

 その理由はおそらく、地図帳にあったと思われる。シャープには最初から、イングランド王チャールズ二世がこの品に大いに興味を引かれることがわかっていた。裁判が始まるまでに、チャールズ二世はすでにこの地図帳を目にしており、英語版の複製を作るための手配も済ませていた。

 海図を書き直すために雇われた地図製作者は、元船乗りで、かつては自身も海賊だったとも言われるウィリアム・ハックだった。元英国図書館の地図部門長だったエドワード・ライナム氏のエッセイによると、ハックはどうやら「地元のパブでブランデーを飲みながら、仕事にあぶれたバッカニアたちから秘密や興味深い情報を集め、政府のメンバーや貴族に売りつけて」生活した方が安全だと考えるようになったと思われるという。

 ハックは、ロサリオのデロテロを元に、南海の海図集の複製をいくつか作っている(一部、海賊ヘンリー・モーガンが略奪したデロテロを参考にしたところもあるようだ)。

1685年版のハックによる地図帳の1ページ。現在のチリにある街コンセプシオン周辺の南米の海岸線が描かれている。イタタ川(地図の左端)は「非常に人口が多く、スペイン人と先住民が互いに友好的に暮らしている」と記されている。(COURTESY NATIONAL MARITIME MUSEUM, GREENWICH, LONDON)
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 色彩豊かなハックの絵は、子どもの絵のような無邪気さを感じさせるが、手書き文字で記された、卓越風、安全な係留地、その土地の目印となる目標物などの説明書きは、船の航行に大いに役立ったはずだ。ハックは南北米大陸の海岸沿いの港を数十箇所も描き入れている。木や家が並ぶ緑の丘が頻繁に登場し、またグアテマラの地図に見られるように、噴火する火山が描かれているところもある。(参考記事:「もはや海の珍獣図鑑! 16世紀の「カルタ・マリナ」」

 一冊目の複製は当然ながら、シャープの献辞入りでイングランド王に献上された。この如才ない作戦が功を奏し、シャープは絞首刑になるどころか、イングランド海軍で船長の地位を与えられ、財宝を積んだままバハマで沈んだスペイン船を探す仕事を請け負った。これは割のいい仕事ではあったものの、彼にとってはややおとなしすぎたのかもしれない。シャープは自らの意志で西インド諸島に向かい、そこで時おり犯罪行為を働いて暮らす生活に戻った。生涯の終わりまで、その心は海賊であり続けた。

ギャラリー:古今東西の個性的な地図 6点(画像クリックでギャラリーへ)
1939年サンフランシスコ万博の壁画として描かれた、太平洋を中心に世界の動植物を示した地図。「太平洋のページェント」と呼ばれるテーマ別の巨大地図6点のうちの一つで、ミゲル・コバルビアス氏の作品。(COURTESY OF RUMSEY AND COVARRUBIAS)

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