軟組織の痕跡を含む魚竜の化石は、1世紀以上前から見つかっている。酸素が少ない深海の堆積物に魚竜が埋もれると、このような化石ができる。もっとも有名なのは、ドイツのホルツマーデンにある頁岩の採石場で見つかった化石だ。ここから出土した魚竜の化石には、黒っぽい輪郭線があるものが多く、皮膚やヒレの形までわかる。

 藻谷氏によると、そのような輪郭線が残された化石を研究していた人々は1930年代から、魚竜にはクジラのような皮下脂肪があったのではないかと考えてきた。体の輪郭がわかるおかげで、背骨と体表のあいだの隙間が確認できたからだ。これは、大量の軟組織が詰まっていた可能性を示している。

 難題は、皮下脂肪が存在した化学的な証拠を示すことだった。化石の輪郭線は、本当に魚竜の輪郭と断定できるのか。それとも、死骸を食べたバクテリアの層にすぎないのか。果たして化石に、生きていた魚竜の脂肪やタンパク質の痕跡が残されているのか。(参考記事:「21世紀最大の発見「恐竜の軟組織」をめぐる論争」

【参考動画】魚竜とは
魚竜を表す「イクチオサウルス」という言葉は、「魚に似たトカゲ」というギリシャ語が由来になっている。長い間世界の海を支配したこの海生爬虫類には、バスケットボール大の目、直立した尾などの特徴があった。こういった特徴のおかげで、魚竜は太古の食物連鎖の頂点に君臨していた。(解説は英語です)

「不思議の国のアリスのような話でした」

 こういったことを突き止めるには、魚竜の化石を化学的に詳しく分析する必要がある。しかし、博物館の化石は、まわりの岩石がきれいに取り除かれていたり、安定化剤で処理されていたりする。それによって、異物が混入する恐れがある。

 そこで、スウェーデン、ルンド大学の古生物学者ヨハン・リンドグレン氏は、他の物質が混入していない魚竜の化石を調達し、できるかぎり多くの化学的な分析を行うことにした。たくさんの化石を収蔵しているホルツマーデンのハウフ博物館には、それにうってつけのステノプテリギウスの標本があった。リンドグレン氏のチームには、複数の国から23名の研究者が参加した。

「これは不思議の国のアリスのような話でした」とキア氏は言う。「ウサギを追って穴に入ったら、どこまでもどこまでも続いていたのです」

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