未曾有のペースで進む グリーンランド氷床融解

氷床コアから解析、過去350年間でもありえない速度で融解

2018.12.08
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グリーンランドの氷床の端で雪解け水を調べる研究者。(PHOTOGRAPH BY GINNY CATANIA, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
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 2012年7月、北極圏で異例の高温が数日にわたって続き、グリーンランドの氷床(地表を覆う氷の塊で規模の大きいもの)のほぼ全面が解けだした。(参考記事:「グリーンランドの氷河の流れが加速」

 氷床の端に積もった雪の上には、真っ青な水たまりができた。水たまりはやがて小川となり、溝や割れ目を勢いよく流れ出す。ある川は増水し、古くからある橋が押し流された。2012年、氷床からあふれ出した水は、地球の海面を1ミリ以上上昇させた。

 当時、このことがいかに異例で、いかに憂慮すべきかを正確に知る者はいなかった。しかし、最新の研究で、2012年の暑い夏は、グリーンランドからの雪解け水の増加し続けた20年間でも未曾有の出来事であったことがわかった。しかも、この間、気温上昇より速いペースで氷床の融解が進んでいた。そして、今も温暖化は止まらない。(参考記事:「北極海の海氷面積、観測史上2番目の小ささに」

 米ローワン大学の研究者ルーク・トラセル氏は、「過去350年間で一番の氷床融解です。融解の期間も、過去起きた期間よりもはるかに長いと考えられます」と説明する。トラセル氏は2018年12月5日付け科学誌「Nature」に発表された論文の主執筆者だ。

 融解の影響は、決して抽象的なものではない。グリーンランドの氷床は厚さが1.6キロもある。すべての氷床が解けたら、地球の海面は7メートルも上昇するほど大量の氷だ。極地で融解が起きると、沿岸部に暮らす人々はもちろん、輸出入が盛んな港が使えなくなれば大きな影響は免れない、と科学者たちは警告している。(参考記事:「地球温暖化の影響は想定より深刻、IPCCが警告」

「スイッチが入った」

 科学者たちの間では、グリーンランドの氷床が速いペースで解けていることは既知の事実だった。氷床の面積が縮小していることは、人工衛星からの画像で確認できていたからだ。ただ、人工衛星の画像データを遡れるのは1990年代前半までだ。このため、氷の融解がどれほど憂慮すべきかを正確に知ることは難しかった。これほど急速に温暖化が進むことが過去にもあったのか? 人間の活動による地球温暖化が本格化する前と比べて、融解スピードが異常なものと言い切れる情報がなかったのだ。(参考記事:「氷河で75年前の遺体、アルプスの融解著しく」

 そこで、トラセル氏らは氷床そのものを調べることにした。氷床コアには、過去数百年分の融解の記録が残されている。そこで、トラセル氏らはグリーンランドの様々な地点から氷床コアを採取。それらをシミュレーション・モデルと比較し、氷床の融解に起因する雪解け水の流出量を計算した。

 こうしてトラセル氏らは明確なシグナルを発見した。人間活動による気候変動が初めて北極圏を直撃したのは産業革命後の19世紀半ば、氷床の融解と雪解け水の流出がゆっくり増え始めたというシグナルだ。しかし、劇的な変化が起きるのはこの20年のこと。突然、氷床の融解が激しくなり、産業革命前の6倍近くに達したのだ。

「まさにスイッチが入ったような感じです」と、雪氷学を専門とする米バッファロー大学のビータ・クサソ氏は第三者の立場で表現している。

次ページ:「汚れた氷の塊」が融解を加速する

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