“海洋科学のすべてを変える技術” 環境DNAに期待

わずかな量の淡水や海水から海洋生物の生息数を調べる新技術が注目されている

2018.12.06
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 一つのサンプルには数百万個のDNA断片が含まれていることもあるが、幸いにもDNAの組み合わせは種によって異なるため、種の指標となる組み合わせのDNAマーカーがある。米国の「212」の市外局番で、その番号の持ち主がニューヨーク市に住んでいることが分かるように、DNAマーカーを特定したら、それを電話帳の役割をするDNAデータベースに照らし合わせ、一致する種を探し出せばいい。

 この方式は信頼性が高く、調査対象の魚がその水域にどれくらい生息しているかを把握する指標になると、オースベル氏は言う。また、これまで以上に、特定の海域の詳細な生物多様性を明らかにできるようになるだろう。以前なら、引き網を使っても捕獲できるのは20種程度の生物だった。しかし、環境DNAの技術を使えば、同じ海域から100種を検出することも可能だ。

「11年間と6億5000万ドルを費やして2010年に終了した『海洋生物のセンサス』プロジェクトに、環境DNAの技術が使われていれば、予算も少なく、もっと早くプロジェクトは終了していたでしょう」と、このプロジェクトでリーダーを務めていたオースベル氏。

モニタリングの自動化も

「やることは水をコップに何杯かすくい取るだけ。海洋科学のすべてを変える技術と言えます」

 ニューヨークの高校生は、ゴーフィッシュを使って2017年の春と夏に毎週のようにコニーアイランドの桟橋へ出かけ、海水のサンプルを採取した。そして、サメやエイなど34種の海洋生物が、この水域を通過したことが分かった。(参考記事:「離島にグッピーなぜ?遺伝子を調べてみた」

 ボイントン中学校の生徒達も、コーネル大学と協力して、ニューヨーク州北部で外来種を探すため水のサンプルを採取している。

 さらに、ウィスコンシン州でもスペリオル湖を航行する船のバラスト水(航行時のバランスをとるため船内に入れる水のこと)から、黒海域が原産の血色アミなど5種の外来海洋動物プランクトンの環境DNAが見つかっている。

 元米海軍中将で米モンマス大学の元学長、現在は同校の都市海岸研究所で海洋政策研究員を務めるポール・ガフニー氏は言う。「環境DNAを活用すれば、水生生物の多様性や分布、生息数をより頻繁に、広範囲に、より低額でモニタリングできるようになります。モニタリングの自動化も可能でしょう。政府機関にもぜひ知ってもらいたい技術ですよ」

【参考フォトギャラリー】息をのむ水中写真 15点(写真クリックでギャラリーページへ)
キューバのジャルダン・デ・ラ・レイナ(女王の庭)諸島で、カメラの近くを泳ぐペレスメジロザメ。(PHOTOGRAPH BY SHANE GROSS, NATIONAL GEOGRAPHIC YOUR SHOT)

文=Stephen Leahy/訳=ルーバー荒井ハンナ

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