ブラジルやその他のアマゾン川流域諸国は、こうした失敗から得た教訓にもとづき、非接触部族に無理に接触することをやめた。インド当局も、1991年の遠征後はセンチネル族へのプレゼントの投下をやめている。(参考記事:「アマゾン先住民、ダム建設で消える暮らし 写真19点」)
チャウ氏の死は、センチネル族の運命に対する新たな心配をもたらした。インドの著名な人類学者と活動家のグループは、11月26日にマスコミに公表した公開状で、宣教師の遺体を回収するあらゆる試みを中止することを政府に求めた。公開状には、「センチネル族の権利と要求は尊重されなければならない」と記されている。「衝突と緊張を助長することで得られるものは何もなく、事を構えるようなことになれば、より大きな被害が出るだろう」
センチネル族は、世界で唯一、自分たちだけの島に住む未接触部族である。アンダマン諸島の部族の専門家で、先住民族の権利保護団体「サバイバル・インターナショナル」のメンバーであるソフィー・グリッグ氏は、このような環境に置かれたセンチネル族は、部外者が持ち込む疾患に対して「極端に脆弱」であると言う。「私たちが彼らの『接触されない権利』を尊重しなければならないのはそのためです。彼らは自分たちの要望をこれ以上ないほど明確に表明しています」
センチネル族の人々は、自分たちを取り囲む異質な世界の存在を敏感に感じとっているにちがいない。空を見上げれば飛行機が飛んでいるし、水平線に目をやれば船舶が行き来している。彼らの矢じりは、難破船から取ってきたと思われる金属でできている。チャウ氏のように漁師に金を支払って沿岸警備隊のパトロールをかいくぐり、島に接近して双眼鏡で自分たちを覗き見する観光客の姿も見ているだろう。(参考記事:「動画公開はアマゾンの未接触部族を救えるか」)
グリッグ氏は、インド政府が北センチネル島とセンチネル族を保護するためにいっそう努力することを望んでいる。「パトロールを強化し、島の周辺水域を適切に取り締まり、漁師、観光客、宣教師など、あらゆる部外者から彼らを保護することが重要です」
センチネル族が外の世界にあれほど強い敵意を抱いている理由は、彼ら自身にしかわからない。もしかすると、1880年代に英国の植民地開拓者がこの島を訪れ、数人の島民を誘拐し、のちに英国で死なせてしまったことと関係があるのかもしれない。あるいは、善意で近づいてくる人々でさえ、外から来る人間が「今そこにある危機」をもたらすことを本能的に知っているのかもしれない。
どのような理由にせよ、困難だらけの海に囲まれたちっぽけな緑の島で、自分たちの望むように生きるという強い決意をもって抵抗するセンチネル族に感心する人は多い。
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