千歳川、野鳥に近づけるカフェをつくった理由

「肉眼で見える距離で野鳥を見て、命の大切さを感じ取って欲しい」

2018.12.03
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特集フォトギャラリー3点(画像クリックでリンクします)
千歳の森にアカショウビンが命の灯をともす。だが、20年以上前から、その姿を目にすることはなくなった。写真=嶋田忠

 野生動物のなかでも鳥は身近な存在だ。だがその分、その魅力に気がつかないことも多い。鳥たちを知るには、どこまで近づけばいいのだろう。その答えを探して、千歳川が流れる北海道南西部の森を訪れた。

 やって来たのは自然写真家の嶋田忠さんが経営するギャラリー兼カフェだ。嶋田さんは火の鳥とも呼ばれるアカショウビンを追って、38年前に埼玉から千歳へ移住した。千歳川沿いのこの森には、シマエナガからクマタカまで、四季を通じてさまざまな鳥がやって来る。

 カフェの先にもう一つドアがあった。隣接する野鳥の撮影小屋への入り口だ。椅子が9席あるだけの小さな薄暗い小屋は、森に面した壁に開口部があり、野生動物の撮影に使われる迷彩柄のカムフラージュ・ネットが張ってある。客は望遠レンズをその隙間から突き出し、ファインダーをのぞいて息を凝らしている。

肉眼で見えるからこそ

 嶋田さんは撮りたい写真のイメージを事前に絵コンテで描き、「鳥の魅力を最大限に伝える」という思いを具体的に構図にしてから撮影に挑むという。それには、狙いを定めた鳥の生態と行動を完璧に把握しなければならない。そこで嶋田さんはいつも、「ブラインド」と呼ばれるテント生地で作られた小さな隠れ場を用意する。

 これまで行った撮影には、時に餌づけの手法を用いることもあった。たとえば、ブラインドの傍らにある草に覆われた手掘りの池は、アカショウビンの撮影で使われた“餌場”だ。この鳥の好物のエゾアカガエルが自然に産卵するように、水温などを考えながら環境を整えた。

 こうした手法は半世紀近く前、埼玉の川原のブラインドの中で、弾丸のように速く飛ぶ、警戒心が強いカワセミとの距離を縮めようと模索した嶋田さんが、編み出したものだった。

 時代が移った今、餌づけによる撮影を良しとしない考えもある。嶋田さんはそうした意見があることを承知の上で自分のスタイルを貫いてきた。そこにあるのはただ一つ、敬愛する鳥のことを最大限に知りたい、知ってもらいたいという思いだと、嶋田さんは語る。

「だからカフェをつくったの」。自分の思いをわかってくれる人を増やしたかった。少年の頃、物陰に隠れてモズを観察していた自分がそうであったように、「肉眼で見える距離で野鳥を見て、その息吹を、命の大切さを感じ取ってほしいんです」

※ナショナル ジオグラフィック12月号「北海道 鳥を待つ森」では、野生の鳥との向き合い方について、自然写真家の嶋田忠さんに話をうかがいました。

文=大森 浩子/日本版編集部

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