3種のアリをめぐる謎の解明に、科学者たちが取り組んでいる。獲物の首を巣に飾る「首狩りアリ」、手強いかみつき屋のアギトアリ、そして奴隷を使うサムライアリだ。
学名をFormica archboldiというさび色の小さなアリが、数種のアギトアリの頭部を狩り、巣に飾る習性があることは、60年前から科学者の間で知られていた。
何とも不可解な現象だ。アギトアリには恐ろしい毒針と、罠猟に使うトラバサミのようにかみつける大きなあごが備わっている。この巨大なあごには別の機能もある。地面に対して素早くあごを閉じることで、瞬間的に空中に跳ね上がって敵から逃げる。(参考記事:「アギトアリ、トラバサミのような顎で跳躍」)
にもかかわらず、米フロリダ州や近隣の州原産のF. archboldiは、彼らを倒して頭を奪う。この首狩りアリたちは、一体どうやってアギトアリを倒すのだろうか?
「何か不思議なことが起こってはいるのですが、今まで誰も調べたことがありませんでした」。米ノースカロライナ州立大学の生物学者、エイドリアン・スミス氏はこう話す。
11月16日付けの学術誌「Insectes Sociaux」に掲載されたスミス氏の研究成果によると、F. archboldiは毒である蟻酸を非常に手際よく吹きつけることで、獲物を動けなくするのだという。
「珍しいことです」とスミス氏は言う。F. archboldiを含むヤマアリの仲間はたいてい酸を噴射する機能を備えているが、普通は防御にしか使わない。一方、F. archboldiは攻撃に使うのだ。
「戦いの準備はいつでも万端、という感じです」とスミス氏は言う。
【参考動画】自らの体でタワーを作るヒアリ(解説は英語です)
首狩りアリがなぜこれほど効率よくアギトアリを襲えるのか。はっきりしたことはまだ誰にも分からない。だが、アリの体表のワックスに含まれる炭化水素のにおいと関係があるかもしれない。スミス氏がF. archboldiからこの成分を取り出して調べたところ、同じ場所に生息するアギトアリとほぼ完全に一致することが明らかになった。つまり、化学的な擬態である。(参考記事:「アリをだます、カエルの化学擬態」)
いわば、ライオンがシマウマそっくりのにおいを放つようになったり、ガラガラヘビがノネズミのにおいを発するようになったりする進化と同じようなものだ。
常識的に考えれば、獲物を狩るにあたって、これには何らかのメリットがあるのだろうと思える。しかしスミス氏は、その証拠をまだ目にしていない。(参考記事:「華麗な生物の擬態」)
さらに、氏には別の仮説がある。首狩りアリのコロニーを奪い取り、洗脳してしまう別種のアリに関わるものだ。
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