タコが動きの早い獲物を狙う場合、独特の戦略を用いる。まずは腕の下側に並んだ高性能の吸盤を使って獲物を捕まえ、逃げられなくする。次にタコは、獲物を口へと引き寄せ、オウムのようなくちばしで一口大に切り刻むのだ。相手が暴れるようなら、後唾腺に隠された麻痺を引き起こす「毒」を相手に注入することもある。
「こうした食べ方をする動物は、あまりいないのです」とハンロン氏。「タコは、この能力があるからこそ、小さな生き物から大きなものまで食べることができます」
ハンロン氏は、動画のタコはおそらくハリセンボンを食べることができただろうと考えているが、ハリセンボンがなぜ狙われたのか、その理由に関してはわからないという。「タコが進んで、毒のありそうな魚を選ぶなんて、その理由については私も興味がありますね」
フグの仲間の多くは内臓にテトロドトキシンという神経毒を持つことで知られている。テトロドトキシンはシアン化物の1200倍以上の毒性がある。1匹のフグには、成人30人を殺害できるほどのテトロドトキシンが含まれ、解毒剤はない。非常に危険な毒なのだ。ちなみにハリセンボンも、種類や地域によって卵巣に毒をもつものがいるという。
テトロドトキシンは人間には有害だが、タコにどう影響するかはわかっていない。ハンロン氏は、このタコは毒に免疫があるか、そもそもフグの仲間が毒を持つ危険性を知らないのではないかと語る。
トゲで身を守れるのか?
タコにフグの毒に対する免疫があったとしても、タコは鋭いトゲに覆われた相手を食べられるのだろうか?
ハンロン氏によると、ハリセンボンのトゲはタコに対してほとんど防御の役割を果たさないと話す。骨のない筋肉質のタコの腕は、非常に柔らかくてよく伸びる。だから、もっと鋭いものを包んでも皮膚が破れることは、まずないのだそうだ。(参考記事:「生きるために膨らむ動物たち」)
いずれにしても、このタコが手ごわい相手を、なぜ狙ったのかの謎は残る。獲物が少なかったのだろうか?
どちらが勝ったのかわかりませんと、動画を撮影したミラー氏も話す。
この映像と似たフグとタコが対決する動画がネットに投稿されているが、どれも結末が分からないまま映像は終わっている。
本格的な研究がなされるまで、この珍しい戦いの結末は想像を巡らせるほかなさそうだ。
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