いにしえの聖書はプライスレス、真贋問わず高騰中

偽造品や盗掘品が多数、さまざまな陰謀が渦巻く

2018.11.29
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米国フロリダ州にあるキリスト教のテーマパークに展示されている、1400年頃に筆写されたウィクリフ版新約聖書。PHOTOGRAPH BY PAOLO VERZONE,VAN KAMPEN COLLECTION ON DISPLAY AT THE HOLY LAND EXPERIENCE,ORLANDO,FLORIDA

 信仰をもつ人が宗教的な遺物を尊ぶのは当然のことだろうが、遠い過去に預言者と使徒が神の言葉を書き記したと信じる人々にとって、古代の文章は信仰の根幹をなすものだ。彼らにとって正典は、イエス・キリストであれ、ムハンマドであれ、神に選ばれた使者と自分を結びつける有形の絆にほかならない。

 とりわけキリスト教福音派にとって、聖書の記述は一言一句ゆるがせにできない。そのため福音派の強力な後押しで、長く埋もれてきた古文書を探す試みが精力的に行われている。福音派が遺物を買いあさるため、盗掘品の価格が高騰しているとの批判まで聞かれるほどだ。

「福音派は市場にすさまじい影響を与えてきました」とエルサレムの古物商レニー・ウルフは言う。「キリストの生きた時代に関連した遺物は何から何まで大幅に値上がりしています」

 長年、古文書探しの資金を提供してきたのは富豪の収集家や慈善家だ。プライスとガットフェルドが率いるクムランの洞窟調査も、米国テキサス州在住の裕福な弁護士マーク・ラニアーが設立した財団などの寄付に支えられている。イスラエルのテル・シムロンで行われている別の発掘調査は、米国の首都ワシントンに新しくできた聖書博物館の支援を受けている。この博物館の設立者で会長を務めるスティーブ・グリーンは、キリスト教関連の活動に最も多額の寄付をしている米国人の一人だ。

「まだまだ埋もれている宝がたくさんあります。きっと想像以上でしょう」。総工費5億ドル(約580億円)、広さ4万平方メートルの真新しい博物館を訪れたとき、グリーンは私にそう話した。「石を一つひとつひっくり返すぐらい徹底的に調べてみたいと思っています」

断片に46億円の価値

「スティーブ・グリーンは何度も訪ねてきました」。エルサレムの店を訪れると、ウィリアム・カンドーはそう語った。「彼は正直な男、善良なキリスト教徒です。創世記の断片を4000万ドル(約46億円)で買いたいと言われましたが、断りましたよ。値がつかないほど価値があると聞いていましたから」。グリーンによると、4000万ドルの売値をつけたのはカンドーで、自分はそれを断り、もっと安い巻物の断片を買ったという。

「ほら、ここに書いてあります」。そう言ってカンドーが見せてくれた帳簿には、2010年5月に死海文書の巻物の断片7点をグリーンに売却したと記載されていた。

 オープンを翌日に控えた聖書博物館を訪れたとき、死海文書の巻物の断片が5点展示されていた。展示ケースには、その断片が偽物である可能性を認める断り書きのようなものがあった。その後、詳しい分析の結果、5点の断片がおそらく現代の偽造品であることが明らかになった。

 カンドーは、偽物を売るのは評判のよくない古物商で、自分たちは偽物を売ったりしないと憤慨していた。一方、グリーンは何か達観したような口調でこう話す。「聖書の世界は違うと思いたいのですが、結局のところ、あらゆるビジネスと同じようなもので、ぼろもうけしたがる不心得者もいます。失敗から学んで、そういう連中とは二度と取引しないこと。それしか防ぎようがありません」

 グリーンが学んだ失敗の一つは、輸入した多数の粘土板などが、専門家の鑑定で、イラクで盗掘された遺物とわかったことだ。この一件で彼は、問題の遺物を没収され、300万ドル(約3.5億円)の罰金を支払う羽目になった。イスラエル考古学庁の盗掘対策部門のエイタン・クライン副部長はこう話す。「実際のところ大半の遺物は盗掘品で、大半の買い手はその出所を問いただそうとしません。なぜかって? 私のみるところ、遺物の取引に加われば、何らかの形で手を汚さざるを得なくなるからです」

※ナショナル ジオグラフィック12月号「古代の聖書を探せ」では、さまざまな陰謀が渦巻く世界で、神の言葉を探す人々を追いました。

文=ロバート・ドレイパー/ジャーナリスト

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