【ギャラリー】「インド洋のガラパゴス」ソコトラ島 写真16点(写真クリックでギャラリーページへ)
ソコトラ島内陸部に位置するディクサム高地は、リュウケツジュがもっとも多く生息する場所だ。しかし、近年のサイクロンによって数多くの木が被害を受けた。(PHOTOGRAPH BY MARTIN EDSTROM, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)

 モハメド・アブドラ氏は、生まれたころからこの木になじんでいる。彼は、19人の家族や親戚とともに、島の中心付近にある小さな共同体で暮らす。海岸線からは遠いが、肥沃な土壌に恵まれている場所だ。近くのリュウケツジュの世話をしており、年に1、2回樹液を収穫する。

 この樹液には、さまざまな用途がある。薬としても使われ、子どもを産んだ女性は、樹液を水で溶いて飲まなければならないとも言われている。ほかにも、粘土や陶器の顔料、マニキュア、化粧品として使われる。モハメド氏は、「この島でもっとも重要なものです」と言う。その口調からは、切っても切れないつながりが感じられる。「この木は私たちの一部です。日陰が一日中なくならないような形状になっているのです」

 ある意味、リュウケツジュは島そのものを守ってきた。リュウケツジュのような脆弱な希少種を守るため、ソコトラ島では厳格な環境保護が行われている。その一例が、2008年に島の陸地の75%がユネスコ世界遺産に登録されたことだ。島の中央部に位置し、曲がりくねった石灰岩の深い峡谷地帯を取り囲んでいるディクサム高地もその一つだ。遠くから見ると、たくさんのリュウケツジュの木々が花崗岩の山々に向かって伸びているように見える。しかし、実際はたくさんの木が生えているわけではない。(参考記事:「旅心がそそられる ずっと眺めていたい世界遺産の絶景」

 ツアーガイドで、生物多様性を研究している学生でもあるサミ・アリ氏は、「この木の成長は遅いのです」と言う。「樹齢数千年に達することもありますが、若い木が育つのは簡単なことではありません」

 脆弱な生態系は、別の問題にも直面している。外来種による侵略だ。アリ氏はこう話す。「あらゆる場所にヤギがいて、若い木が成長する前に食べ尽くしています。近いうちに、リュウケツジュを見られるのは、ヤギが入れない場所だけになるでしょう」

サイクロンと内戦

 ソコトラ島原産に襲いかかる脅威はそれだけではない。2015 年秋、島は1週間ほどの間に2つのサイクロンに直撃された。アラビア海でこれほど短期間にここまでの悪天候が発生したのは、観測史上初めてのことだった。ソコトラ島のインフラは壊滅的な打撃を受け、人口の3分の1にあたる1万8000人が住居を失った。

 陸地の被害も大きかった。モハメド・アブドラ氏は、内陸部にある村を緑豊かな「神の恵み」と呼んできた。かつては空が見えないほど植物が茂っていたが、いまでは収穫量も減り、明らかに不毛の地と化してきている。

 ディクサム高地の峡谷のそばで、アリ氏は「ここも別の場所になってしまいました」と話す。「かつては美しい川が流れており、たくさんの木々が生えていました。いまはこのとおりです」。山腹がえぐられるように崩れており、リュウケツジュが灰色の骨のように枯れ枝を横たえている。

 いまだ復興のただ中にあった2018年5月、再度サイクロンがソコトラ島を襲い、少なくとも19人が犠牲になった。3年間で3回のサイクロンというのは前例がない。気候変動によって、このような異常気象が頻発するのではないかと懸念されている。ソコトラ島にとって、嵐の季節は始まったばかりなのかもしれない。

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