ペルシャ猫は唯一の例外

 今回の研究ではまた、糸状乳頭の向きが固定されていないことも確認された。短毛のイエネコ3匹の毛づくろいを撮影したハイスピード動画では、ネコの舌が毛玉に触れたとき、糸状乳頭がいったん逃げるように回転する様子が観察できる。この回転が戻ろうとする力のおかげで、突起は毛のもつれのさらに奥へと入り込む力を得て、毛玉を解消していく。

 この柔軟性こそが、糸状乳頭のような短い突起が、長い毛がまばらに伸びている外側の層だけでなく、柔らかい毛が密生している皮膚に近い下毛の汚れまでを取り除く鍵となっていると、フー氏は言う。フー氏らが計測したところによると、毛づくろいの際に舌が与える比較的軽い圧力でも、すべてのネコ科動物は、毛皮の下の皮膚まで清潔にできることがわかった。ただし唯一の例外は毛の長いペルシャ猫で、彼らの毛のもつれを防ぐには、日々のブラッシングが欠かせないという。

 しかし、ネコたちがこれほど熱心に毛皮をなめるのは、単に身だしなみのためだけではない。熱探知カメラを通して観察したところ、ネコの毛づくろいには体温を下げる効果があり、唾液が蒸発することによって、最大で16℃ほどの冷却効果があることが確かめられた。

ネコの舌は、分厚い毛皮の層の下にある皮膚まで唾液を送り届けられる。舌がどのように機能しているかを理解すれば、ネコの毛を剃らずにクリームやローションを皮膚に届ける方法の開発に役立つ。(PHOTOGRAPHY COURTESY OF CANDLER HOBBS (GEORGIA INSTITUTE OF TECHNOLOGY, ATLANTA))
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効果が高くお手入れも楽な猫舌ブラシ

 ネコが体を清潔に保つ仕組みを解明した後、エンジニアであるフー氏は、この研究をさらに一歩進めることにした。自分の子供たちの頭にシラミがわいたとき、フー氏は薬局でシラミの卵の除去に適したブラシを手に入れると、子供たちの髪をすいてシラミを最後の1匹まで取り尽くした。インターネットで調べてみると、櫛はどうやら数千年前からほとんど変わっていないらしいと知ったフー氏とノエル氏は、ネコの舌が、よりすぐれた櫛を開発するヒントになるのではないかと考えた。(参考記事:「音声学者がネコ語の研究を本格始動」

 そこで2人はシリコーン樹脂を使い、3Dプリンターで指を2本並べた程度の大きさのブラシを試作した。ブラシ自体の毛は、ネコの糸状乳頭をそのまま拡大した形にした。この猫舌ブラシと普通のヘアブラシを使って、ナイロン製の人造毛皮の毛玉をどれだけ解消できるかを比較したところ、猫舌ブラシを使ったときの方が、普通のブラシよりも小さい力でより多くの毛玉が解消された。また通常のブラシであれば、ピンセットなどで抜け毛を取り除く手間がかかるところだが、猫舌ブラシの場合、この作業は指で軽く払うだけで済むこともわかった。(参考記事:「未来の形を変える3Dプリント」

 こうした特性は、おそらくネコ用のブラシにも適していると考えられる。ネコの中には、現在市場に出回っているようなブラシを嫌うものもいるが、柔らかい猫舌ブラシでネコ自身の毛づくろいに近い感覚を生み出せば、ブラッシングがさほど嫌でなくなる子もいるだろう。

 すでに猫舌ブラシの特許の申請を済ませているフー氏とノエル氏は、このブラシは毛づくろいだけでなく、ネコの毛を剃らずにクリームやローションを皮膚に塗ったり、さらには布の繊維を整えたりするのにも活用できると考えている。

 ただでさえ人気者のネコだが、猫舌ブラシを手にすれば、もはや世界を席巻してしまうかもしれない。(参考記事:「ネコは自ら家畜化した、遺伝子ほぼ不変、最新研究」

【参考ギャラリー】ようこそ「ネコの船」へ、50匹の共同生活 写真14点
ボランティアにブラシをかけてもらうのを待つカスミ(10歳メス)。(PHOTOGRAPH BY MUHAMMED MUHEISEN, NATIONAL GEOGRAPHIC)

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