人間を超える巨体で鋭敏に狩りをし、相手に噛みつくと毒を流し込むコモドオオトカゲ(Varanus komodoensis)は、なかなか驚異的な生き物だ。長距離移動をこなせるうえ、天敵がほとんどいない。にもかかわらず、彼らがどうしてもっと広い範囲に生息していないのか、一部では不思議に思われてきた。(参考記事:「毒で獲物を仕留めるコモドオオトカゲ」)
インドネシアのバリ島からティモール島にかけての小スンダ列島が、コモドオオトカゲの唯一の生息地だ。最新の研究によれば、このトカゲたちは、地元での生活に大変満足しており、生まれ故郷からはほとんど出て行かないことがわかった。(参考記事:「21世紀に生きる“ドラゴン” コモドオオトカゲ」)
11月14日付けの学術誌「英国王立協会紀要B(Proceedings B of the Royal Society)」に掲載された論文は、同列島でのコモドオオトカゲの移動パターンを10年にわたって追い続けた成果をまとめたものである。
論文によると、コモドオオトカゲは移動および運動能力に秀でており、時には生息する谷の中を一日に10キロメートル以上も動きまわることがわかった。「トカゲとしては、とても活動的です」と、オーストラリア、ディーキン大学の生態学者であり、論文の筆頭著者でもあるティム・ジェソップ氏は語る。
だが彼らは、あくまで地元が好きなようなのだ。
ドラゴンへの道
ある生息地でのコモドオオトカゲの暮らしぶりはこんな具合だ。彼らは日々、すみかである幅2キロメートルほどの谷の中を動きまわっている。乾燥した森林地帯や、太陽の照り付けるごつごつとした草地を行き来し、獲物や他のコモドオオトカゲ(獲物がコモドオオトカゲということもある)を探す。
ジェソップ氏は、コモドオオトカゲの科学的モニタリングおよび管理を行うコモドサバイバルプログラムというNPOの研究者たちとともに、継続中の長期保全プロジェクトの一環として移動の調査を行った。
調査チームはコモド国立公園内の10の生息地で、GPSや電波式測定装置、または捕獲、標識装着、再捕獲といった方法を用い、コモドオオトカゲの移動を追跡した。さらに7個体を、捕獲した場所から島内の別の場所、あるいは異なる島へと人為的に移動し、どのように行動するか調べた。
すると、コモドオオトカゲは、自分が生まれた、あるいは捕獲されたエリアである谷の中を縦横無尽に動きまわる割に、それらの谷からはほとんど出ることがなかった。再捕獲された1000頭を超えるコモドオオトカゲのうち、生息地の間を移動したのはわずか2頭だった。(参考記事:「「退化」は進化の一環、新たな力を得た動物たち」)
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