ナガスクジラの個体数は20世紀の捕鯨によって激減しており、絶滅の危機に瀕している。(PHOTOGRAPH BY TUI DE ROY, MINDEN PICTURES/NAT GEO IMAGE COLLECTION)
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戦争と地球温暖化

 今回の研究では、20頭のナガスクジラ、ザトウクジラ、シロナガスクジラのホルモン濃度を調べた結果、19世紀後半から1970年代までの捕鯨活動とクジラのストレスとの密接な関係が明らかになった(1970年代以降は法律により捕鯨活動は劇的に減少している)。

「相関があったこと自体が驚きでした」とトランブル氏は言う。研究者たちは捕鯨がクジラのストレスを増大させることは予想していたものの、ホルモン濃度が捕鯨活動の縮小と密接に相関していることまでは予想していなかった。「クジラは環境の変化を敏感に感じとるので、かつて有毒ガスをいちはやく察知するために炭鉱で使われたカナリアと同じように利用できるかもしれません」(参考記事:「消えた19世紀の捕鯨船、アラスカ沖で見つかる」

 しかし、研究者が発見したストレス源は捕鯨だけではなかった。1939年から1945年までのコルチゾール濃度の上昇は、クジラのストレスレベルが高いことを示していた。この時期、銛でしとめられたクジラの数は減少していたが、別のストレッサーがあった。世界大戦だ。「第二次世界大戦中のコルチゾール濃度の増加は、飛行機や爆弾や船などの騒音によるものだと考えています」とトランブル氏は言う。(参考記事:「地震探査の騒音からクジラを守る指針」

 1970年頃からは(特に1990年以降には)厄介な傾向が見られる。海水温の上昇とともにコルチゾール濃度が急速に上昇しているのだ。これは、気候変動もクジラのストレスになっていることを示唆する。

 トランブル氏によると、生息域や食物の量の変化から、高温の海水が生理機能に及ぼす直接的な影響まで、地球温暖化はさまざまな方面からクジラに影響を及ぼすという(クジラは家の中が暑いからと言ってエアコンのスイッチを入れるわけにはいかないのだ)。研究チームは、気候変動に伴う変化の中で、具体的にどのようなものがクジラのストレスを高めているかを特定しようとしている。(参考記事:「誰も予測できなかったザトウクジラの復活」

 そのためには、さらなる研究が必要だ。温度との相関は、わずか6頭のクジラの耳垢栓の分析結果にもとづくものだからだ。さらにケラー氏は、自然な加齢プロセスもホルモン濃度に影響を及ぼすため、クジラの死因なども考慮したいと考えている。

 だからと言って、気候との相関がないということにはならない。「この研究の弱点は、これだけ大きなスケールの歴史的問題に挑戦することの難しさを反映しているにすぎません」とケラー氏は言う。

 問題解決の最良の方法は、もっと多くの耳垢栓を調べることだ。トランブル氏は、まさにそれを計画している。研究チームはすでに数十個の耳垢栓を入手したという。「乞うご期待です」(参考記事:「眼前で激写! 人懐こいクジラのすむ海、メキシコ」

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