約150年間のクジラのストレス度、耳垢で解明

捕鯨のほか、戦争や地球温暖化もストレスに、研究

2018.11.20
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大型のクジラ(写真はザトウクジラ)のストレスホルモン濃度を測定するのは非常に難しいため、科学者たちは、クジラの耳垢にホルモン濃度の記録が刻まれていたことに喜んでいる。(PHOTOGRAPH BY FLIP NICKLIN, MINDEN PICTURES/NAT GEO IMAGE COLLECTION)
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 人間の耳垢(あか)は、指で取ったものも綿棒(これはお勧めできない!)で取ったものも、ふつうは近くのゴミ箱に直行する。しかし外耳道に溜まる耳垢には、健康状態に関する情報が含まれている。

 これは人間だけでなく、巨大なクジラも同じだ。しかも、クジラの耳の穴はふさがっているため、耳垢は生涯溜まりつづける。世界の博物館の管理者たちは、100年以上の間、死んだクジラから巨大な耳垢栓(耳垢の固まり)を収集してきた。

 こうして保管されてきた耳垢栓のおかげで、科学者たちは、過去およそ1世紀半にわたる人間の活動がクジラに及ぼしたストレスに関する記録を手に入れることができた。米国ベイラー大学の比較生理学者スティーヴン・トランブル氏らは今月、学術誌『ネイチャー・コミュニケーションズ』にその研究成果を発表した。論文によると、人間がクジラとじかに相互作用することはほとんどないにもかかわらず、捕鯨や戦争から気候変動まで、私たちの活動はクジラに影響を及ぼし続けているという。(参考記事:「座礁したクジラの胃から自動車部品」

耳垢に刻まれた記録

 クジラの耳垢栓は長さ50cm以上、重さ約1kgにもなり、クジラの生涯にわたる健康状態やクジラが生きてきた環境に関する情報を豊富に含んでいる。

 耳垢は年輪のように層をなして溜まっていくため、研究者は殺虫剤の濃度から繁殖周期まで、さまざまなデータを年代順に入手できる。

 トランブル氏らが調べようとしたのは、人間の活動に対するクジラの反応だ。その最良の方法の1つは、クジラがストレスを感じているときに分泌されるコルチゾールなどのホルモンの濃度を測定することだ。

 クジラのホルモン濃度のデータを、直接、長期にわたって収集することは途方もなく難しい。特定の個体をずっと追跡し続け、試料を採取することは、基本的に不可能だ。クジラが食物をこしとるのに使う「クジラヒゲ」には約10年分の情報が含まれているが、クジラは50~100年生きるため、生涯の一時期についてしか調べられない。

 これに対して、耳垢栓からは数十年分のデータが得られる。

 しかし、耳垢栓から情報を取り出すのは容易ではない、とトランブル氏は言う。分析のために耳垢栓の層(1つの層には約半年分の情報が含まれている)を分離する作業は慎重に進めなければならず、それだけでも数日を要する。

 とはいえ、苦労は十分に報われた。「ストレッサー(ストレスの原因となる刺激)の全体像を描くことができ、それに対するクジラの生涯にわたる反応も明らかにできました。前例のない成果です」とトランブル氏は強調する。

 米国海洋大気庁(NOAA)の南西漁場科学センター(カリフォルニア州ラホヤ)の鯨類生物学者ニック・ケラー氏も同意見だ。「捕鯨の致死的でない影響について、これまでで最良の科学的知見であり、この分野を大きく前進させる成果です」

【参考ギャラリー】クジラの世界 写真14点(写真クリックでギャラリーページへ)
覆われたダイバーと出会ったミナミセミクジラ。全長16メートル、体重60トンにまで達する個体もいる。(PHOTOGRAPH BY BRIAN SKERRY, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)

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