キアル氏はこの指摘に対し、隕石が氷床の上から衝突したと仮定すれば、盛り上がりが小さいことも、レーダーで観測した堆積物の傾斜やがれきも説明がつくと述べている。
ただし、今後やるべきことについては、キアル氏とフェリエール氏の意見は一致している。放射年代測定も視野に入れ、今ある試料をさらに詳しく分析し、さらに現地で新たな試料を採取するというものだ。理想としては、厚さ1000メートル近くある氷河とその下の岩盤にドリルで穴を開けたいと2人とも口をそろえる。辺境での大がかりな掘削は困難をともない、費用もかかるが、前例がないわけではない。
「彼らの予想はもっともだと思いますが、すき間だらけの予備データで強すぎる結論を下しています。実際に掘削を行えば、全く違うものが見つかるかもしれません」とフェリエール氏は話す。現状では、キアル氏らの衝撃石英の発見は「まるで殺人現場に到着したら1人のみじめな男がそこにいたようなものです。彼が殺人犯とは限りません」と述べている。
世界を一変させた?
衝突クレーターの年代に関する十分な情報はまだ集まっていないが、研究チームは分析結果を基に、隕石衝突の大まかな時期を提示している。レーダーで「読み取り」可能な岩石と氷の構造を考えると、隕石衝突時にも氷河は存在していたはずで、衝撃によって氷に穴が開き、大量の氷が融解、再凍結した可能性が高いという。これらが示唆しているのは、更新世が終わる約1万1700年前より少し前に隕石が衝突したということだ。(参考記事:「小惑星衝突「恐竜絶滅の日」に何が起きたのか」)
「地質学的には、おそらくかなり若いと言えます」とマグレガー氏は話す。「300万年は経っていなさそうですし、もしかしたら1万2000〜1万5000年程度かもしれません」
もし今回の発見が正しければ、ハイアワサクレーターはある仮説の新たな証拠となり、さらに大きな論争を呼ぶ可能性がある。約1万2900年前から約1万900年前にかけてはヤンガードリアスと呼ばれる亜氷期だったが、北米大陸の北部に、隕石や彗星など、巨大な何かが衝突したことが寒冷化の原因だと言われている。この仮説によれば、衝突をきっかけに大陸の大部分が山火事に包まれ、マンモスやマストドンといった氷河時代の大型哺乳類が絶滅しただけでなく、先住民のクロービス文化も消え去ったという。(参考記事:「1万年前の寒冷期、隕石原因説は誤り?」)
長らくこの仮説は、相応な大きさの衝突クレーターが存在しないことが大きな問題点だった。今回の発見がもし本物で、年代も一致すれば、ハイアワサ・クレーターは有望な説明になるとマグレガー氏は考えている。「推測の域を出ない仮説ですが、もし(関連が)証明されれば、人類史に途方もない影響を与えたことになるでしょう」(参考記事:「クロービス以前、マストドンの骨解析」)
「論文では触れていませんが、可能性はあると思います」とキアル氏も述べている。「大きな論争を呼ぶ恐れがあるため、私たちも調査を続けなければなりません。正確な年代を特定しないことには何もわかりません」