【動画】ターニャ・スミス氏自身による解説動画。(解説は英語です)

何をして鉛に触れたのか

 研究チームはさらに分析を進め、歯に含まれる元素の割合や酸素同位体の比率を導き出した。酸素同位体の比率を調べれば、当時の気候を読み解ける。古代人が食べたり飲んだりしたものには酸素同位体が含まれており、その比率が温度によって変化するため、気温についての記録が残るというわけだ。おかげで今回の研究では、週単位の気候まで明らかになった。

 この記録から、多くの哺乳類と同じように、歯の持ち主は春に生まれていたことがわかった。しかし、真冬には、どちらのネアンデルタール人の子どもにも微妙な構造の乱れが起きていた。これは、ストレスがかかっていたことを示している。「さまざまな事象によって、歯の成長は微妙に変化します」とスミス氏は言う。しかし、この乱れはいずれも冬に起きていた。寒さのせいで発熱やビタミン不足、病気などに陥っていたのかもしれない。

 寒さのせいで生じていた問題はまだある。冬から早春にかけての時期に、鉛汚染が見られたのだ。「いったい何をして鉛に触れたのかというのは、未解決で興味深い疑問です」とスミス氏は言う。だが、天然の鉛の堆積物は、ネアンデルタール人が生活していた場所の近くにも存在するそうだ。寒さのため、近くの洞窟に逃げ込み、そこで得られる汚染された食べものや水に頼らざるをえなかったのかもしれない。あるいは、鉛を含む物質を燃やし、その煙を吸い込んだことが原因である可能性も考えられるという。(参考記事:「ネアンデルタール人のゲノム解読、我々の病に影響」

母乳のしるし

 研究チームはバリウムの変化を調べ、ネアンデルタール人の授乳の習慣も解き明かした。母乳には、驚くほど多くのバリウムが含まれている。バリウムは、カルシウムと同じように、子どもの骨や歯の成長に役立つ。

 調査対象となった歯の1本は、子どもが乳離れしてから形成されたものらしかった。対してもう1本には、生後2年半にわたって授乳していた形跡がはっきりとあった。

 ネアンデルタール人の授乳に関する先行研究は1例だけだ。2013年、スミス氏を含むグループが、現在のベルギーで見つかったネアンデルタール人の歯から、わずか1年数カ月しか授乳されていなかったことを突き止めた。しかし、授乳が突然終わっていたことから、子どもが母親から引き離されたり、突然病気になったりした可能性が示唆されている。

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