人に触れずに、幼虫を送り込む

 中南米に生息するヒトヒフバエは、人間に近づきもせずに、われわれの皮膚の下に幼虫を送り込む技を持っている。

 彼らの成虫はまず、蚊の体に卵を産み付ける。蚊が人間を刺すと、われわれの体温に刺激されて卵が孵化し、幼虫が皮膚の下に入り込む。

 幼虫はその後、人間の白血球を食べて成長する。ただし人体に害を及ぼすほどのことはないと、カナダ・ロイヤルオンタリオ博物館の昆虫学者、ギル・ウィーゼン氏は言う。(参考記事:「目から寄生虫が次々と、14匹を摘出、初の感染例」

 ウィーゼン氏はこれまでに2度、自らの体を使ってヒトヒフバエの幼虫を育てた経験を持つ。幼虫が出入りする際の刺激はほとんど気づかない程度のもので、これは「彼らがその一帯を麻痺させる化学物質を分泌する」からだそうだ。

「ヒトヒフバエは美しい虫です。これは、彼らがわたしから生まれた息子だからそう思うのではありません」と、ウィーゼン氏は言う。客観的に見ても、メタリックな青い体を持つこのハエが、人目を引く容貌をしているのは確かだ。

落とし穴へ引きずり込む幼虫

 ウスバカゲロウの幼虫であるアリジゴクは、恐ろしげな姿で、ホラー映画に出てきそうな罠を使って獲物を捕まえる。アリジゴクは柔らかい砂に穴を掘る。そこをたまたま通りかかって足を滑らせた不運なアリは、壁を這い上がれずにズルズルと穴の中に落ちてゆく。

 アリがなかなか落ちない場合には、アリジゴクが砂を投げつけて脱出を阻む。そしてついには、長く伸びたた顎でアリを捕らえ、その体液を吸い出す。だがこの幼虫はやがて、トンボに似た姿の、繊細で美しい昆虫へと成長する。(参考記事:「サハラ砂漠の華麗なムシたち ウスバカゲロウ・タマムシ編」

大きなカエルを食べる小さな昆虫

 虫を食べるカエルは普通だが、逆にカエルを食べる虫というのも存在する。

 オサムシ科に属する甲虫(Epomis属)の2種は、触角を揺らして餌を装い、カエルを誘う。カエルが十分に近くまで寄ってくると「オサムシは襲いかかります」と、2011年に学術誌『PLoS One』にこの行動についての研究を発表したウィーゼン氏は言う。

オサムシ科の甲虫Epomis circumscriptus。右は成虫で左が幼虫。この幼虫は、カエルに取り付いてその血液と組織を吸い出す。(PHOTOGRAPH BY GIL WIZEN, NATURE PICTURE LIBRARY/ALAMY)
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 Epomisの幼虫は、カエルの体のどこであれ、最初に触れた部分にぴったりと取り付く。そこが幼虫を食べようとしたカエルの舌であれば、幼虫は噛まれてしまわないように、喉の方へ移動することもある。彼らはカギ状の顎をうまく使って、より良いポジションを確保する。

 幼虫はそれからおよそ1週間にわたって、カエルの体内から血液と柔らかい組織を吸い出し、その後はカエルを「かじり始め、骨以外、何も残らなくなるまで」食べ尽くす。(参考記事:「カエルの胃腸を「屁」で攻撃、嘔吐させる虫を発見」

 聞くと恐ろしい話だが、カエルは一生で数えきれないほどの昆虫を食べるのだから、「本当の悪が誰なのかについては、なんとも言えません」とウィーゼン氏は言う。

 結局のところ、これは悪でも何でもない。生きるため、進化の中で獲得した、自然の生き様なのだ。

参考記事:2017年、動物たちの仰天ニュース11選(写真クリックで記事ページへ)
空から落ちてきた新種ネズミから、ウシを土に埋めたアナグマまで(PHOTOGRAPH BY JEGATH JANANI)

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