ミイラやネコも? パスポートの意外なトリビア

エジプトのミイラから英国の馬まで、世界には変わったパスポートがある

2018.10.31
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今日では当たり前になっているパスポートの要件が標準化されたのは、第一次世界大戦の後だ。(Photograph by Nico Tondini, Robert Harding/Nat Geo Image Collection)
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 パスポート(旅券)は世界につながる扉だ。どの国のパスポートかにはよるが、一般にパスポートがあれば、自由に海外を旅できる。現在のパスポートにあたる最も古い記録は紀元前450年のもの。15世紀には英国のヘンリー5世が臣下に旅行を許可する文書を与えたという記録も残る。海外渡航で当たり前のパスポートだが、パスポートが国際的に標準化され、手のひらサイズの小冊子の形を取るようになったのは20世紀と最近のことだ。今回は、パスポートにまつわるトリビアを紹介しよう。

ミイラの顔写真

 古代エジプトにパスポートのようなものが存在していたという記録はないものの、古代のミイラにパスポートが発行されたことはある。1974年、古代エジプトのファラオ(王)、ラムセス2世(紀元前1213年に死亡)のミイラが復元のためパリに運ばれる際、エジプト政府はパスポートを発行。中にはファラオの写真が貼られ、職業欄には「(故)王」と記載された。(参考記事:「【動画】80トンのファラオ像、4度目の引越し」

女王の権利

 もし、ラムセス2世の60年以上にわたる治世にパスポートが必要だったとしても、ファラオであるラムセス2世にパスポートは必要なかったはずだ。慣例的に、在位中の君主はパスポートが不要だからだ。英国女王がそうだ。英国王室の公式ウェブサイトには、「英国のパスポートは女王陛下の名において発行されるため、女王陛下はパスポートを所持する必要がありません」と書かれている。事実、英国のパスポートの表紙の裏面には、パスポートの所持者を「女王陛下の名において」自由に通行させることを国務大臣が要請した文が記載されているのだ。要するに、女王はパスポートそのものなのだ。(参考記事:「リチャード3世の遺骨、駐車場から発掘」

 これは日本の天皇陛下も同様だ。日本のパスポートの表紙には、皇室の紋章である菊花紋章をデザイン化したものが印刷されている。ちなみに「本旅券の所持人を通路故障なく旅行させ」ることを求める要請文は外務大臣によるものだ。なお今上天皇は2019年春に譲位された後は、ほかの皇族と同様に、海外に渡航する際はパスポートが必要となるだろう。

鳥にパスポート

 国境線は人間の都合で作ったものだから動物には無関係、とは限らない。なんと鳥にパスポートが必要な国がある。ハヤブサは、学名をFalco peregrinusといい、peregrinusは「放浪者」を意味する。だが、アラブ首長国連邦(UAE)ではハヤブサにもパスポートがあるのだ。鷹狩りがアラブ系遊牧民ベドウィンの重要な伝統文化であるUAEでは、猛禽類の中でもハヤブサは大変貴重な鳥だ。鷹狩りが狩猟の手段ではなくなった今も、スポーツとして人気があり、国民のプライドの源でもある。(参考記事:「ドバイが“ハヤブサ大国”になった理由」

 文化的にも金銭的にも貴重なハヤブサは、常に密猟の危険がつきまとう。そのためUAE内のハヤブサが、鷹狩りの祭りや競技に参加するために移動するには、同国が発行する緑色のパスポートが必要なのだ。なお、ハヤブサのパスポートには、足輪に彫り込まれた番号と対応する識別番号が記載されている。人間と同様に、入国管理官の審査を受け、国から国への移動履歴を示すスタンプの押印、日付の記入もする。

なんと馬にも!

 一般にはあまり知られていないが、動物のパスポートはハヤブサに限ったものではない。米国では、ペットが州を移動する際に申請手続きが必要だ。欧州連合(EU)では、ペット用に「ペットパスポート」と呼ばれる表紙裏面にペットの写真が貼られた青い冊子がある。ペットパスポートがあれば、ペットの検疫の係留なしにEU加盟国間を飼い主とペットは行き来できるのだ。この制度は便利なので人気だが、英国はEU離脱後に、このパスポートが使えなくなる可能性が高い。2018年10月に飼い主が数百匹の犬を伴い、EU離脱の可否を決める国民投票のやり直しを求めてロンドン市内をデモ行進した。デモはレファレンダム(referendum:国民投票)にちなんで「ウーファレンダム行進」と称した。

 英国の馬も、ある種の「パスポート」の取得が義務付けられている。目的は、人体に有害な薬物治療が施されている馬の肉が、誤って市場経由で人間の口に入らないようにするためだ。

国内移動にもパスポート?

 米国では、今後、国内を旅行するだけでもパスポートの提示を求められる人も出そうだ。2005年に成立した「運転免許証の発行基準に関する連邦法」(通称リアルID法)は、各州が発行するIDカードの統一基準を定めている。リアルID法では、法で定めたセキュリティー要件を満たしていないIDカードは国内飛行便に搭乗する際の身分証として認められないことになっている。つまり、州が発行するIDカードは、事実上の国民用IDカードとなったのだ。既に多くの州が同法に準拠したIDカードを発行しているが、カリフォルニア州やマサチューセッツ州など、対応が追いつかず同法の適用を延期せざるを得なかった州がある。2019年1月10日以降は、古いIDカードなど、同法に準拠したIDカードを持っていないと、国内便への搭乗でもパスポートの提示が求められるようになる。

道の横断に提示が必要な理由

 現在の米国では、パスポートを保有する人が増えている。理由は様々あるが、大きな理由の一つが、2007年の法改正でメキシコやカナダなど、隣接する国に行く際もパスポートの携行が義務付けられたためだ。かつては穴だらけだった米国境も、現在は国境伝いの街の通りを渡るだけでもパスポートが求められるほど管理が厳しくなっている。パスポートの証明書としての重要性は、生活の中で今後、ますます高くなっていきそうだ。(参考記事:「ナイアガラの滝から水が消えたら?」

ペットの猫「テディ」のパスポート。EU加盟国間の旅行時に、このペットパスポートがあれば、ペットの検疫が免除される。(Photograph by Rebecca Hale, Nat Geo Image Collection)
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文=Karen Gardiner/訳=山内百合子

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