誰も予測できなかったザトウクジラの復活

温暖化が著しい南極半島で生態系バランスが崩れ始めた

2018.10.26
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波に洗われた岩の先にそびえるのは、接岸して割れた海氷。南極半島では、氷が生き物にとっての生命線だが、大気や海の温暖化によって陸と海で氷の融解が進んでいる。PHOTOGRAPH BY KEITH LADZINSKI

 南極で今、誰も予想しなかったことが次々に起きている。その一つが、ザトウクジラの復活だ。

 南極のクジラは20世紀初頭、商業捕鯨による乱獲で絶滅寸前まで追い込まれた。今も個体数が十分に回復していない種も多い。ところがザトウクジラは勢いを盛り返し、毎年7~10%も増えている。

「この数、どうかしてますよ!」

 南極・パーマー諸島の周辺をモーターボートで走りながら、米カリフォルニア大学サンタクルーズ校の海洋生態学者で、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーも務めるアリ・フリートレンダーは叫んだ。

 フリートレンダーは、2001年から南極のザトウクジラの移動や採食行動を研究している。ザトウクジラは仲間と戯れたり、驚くほど深く潜ったりするが、体重が40トン近くにもなるため消費するエネルギーも膨大だ。だが気候変動のおかげで、栄養源が入手しやすくなっているとフリートレンダーは指摘する。

300頭のザトウクジラが集結

 その兆候が最初に確認されたのは、2009年5月だった。南極では晩秋に当たり、中南米のエクアドルやパナマで冬を越すザトウクジラは、とっくに姿を消している時期だ。ところが、調査船の音響測探機が何キロにもわたって広がるオキアミの大群を検知した翌朝、目撃したザトウクジラの数に目を見張ったという。15キロ進む間に306頭。世界各地の海で豊富な観察経験をもつフリートレンダーでも、あれほどの集団は見たことがなかった。「氷がないから集まってきたんです」

 ザトウクジラは、海が氷に閉ざされる3月下旬から4月上旬に南極を離れるのが普通だ。ところが氷のない時期が延びて、クジラは南極の海を悠々と泳ぎ回ってオキアミを食べられるようになった。全長5センチほどで、透明な体のオキアミは、何キロにもわたる巨大な群れで移動し、その密度は1立方メートル当たり6万匹以上になる。そのオキアミを好きなだけ食べて、ザトウクジラの個体数は爆発的に増えた。

 アデリーペンギンの食物の半分を占めるのは、コオリイワシだ。だが数年前、調査隊がパーマー諸島で昼夜を問わず網を入れたものの、コオリイワシは1匹もかからなかった。海氷がかつてない規模で解けた結果、魚も姿を消したのだ。一方で、ペンギンがオキアミを食べる量が増えていることも科学調査でわかっている。だがコオリイワシ1匹と同じカロリーを摂取するには、オキアミを20匹食べなくてはならない。

捕食動物と漁業者がオキアミ争奪戦?

 ペンギンとザトウクジラだけではなく、カモメやイカ、オットセイ、アザラシも、オキアミを食べる。シロナガスクジラに至っては、1日に数百万匹も胃袋に収める。オキアミを食べる生き物を獲物にする動物も多い。南極の動物たちは、脂肪をたっぷり蓄えたオキアミが大好物なのだ。

 人間も新しい海洋資源としてオキアミに目をつけた。1960年代に旧ソ連の漁船が南極大陸周辺で操業を始め、現在ではノルウェー、韓国、中国、チリ、ウクライナを中心に、年間10隻ほどが漁を行っている。オキアミはオメガ3脂肪酸のサプリメントやオキアミオイル配合のグミの原料、そして養殖サケの餌になる。

 南極の動物たちを支えているオキアミは、果たしてこの先も足りるのか? 今後の急速で、激しい温暖化と氷の消失がどう影響するか、今のところ予測はついていない。

※ナショナル ジオグラフィック11月号「南極半島 消える生命の氷」では、温暖化が著しい南極半島西部の現状を追いました。

文=クレイグ・ウェルチ/環境ジャーナリスト

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