「超人」の秘密を探る、特別な人々から学べること

バスケのスター選手から顔面移植をした患者まで

2018.10.29
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 一方、レジリエンス・プロジェクトは、まったく別の話で、嚢胞性線維症のような、通常は死に至る病気の遺伝子を持ちながら、何らかの理由で、発症していない人を探しています。嚢胞性線維症や若年性アルツハイマーを引き起こす遺伝子があれば、ほぼ必ず発症します。しかし、恐ろしい病気を引き起こす遺伝子を持っているのに、まだ発症していない人がいます。このプロジェクトでは、そのような人たちを研究しています。これらの人たちは、病気を引き起こす可能性のある遺伝子を持っているのに、何らかの形で発症を抑える遺伝的システムがあるはずで、非常に興味深いからです。

――米国屈指のビジネス書作家のマルコム・グラッドウェル氏が「1万時間の法則」を提唱しています。その内容を説明していただけますか。また、実際には練習だけでは成功できない理由を教えてください。

 マルコム・グラッドウェル氏は、科学者アンダース・エリクソン氏の研究を参考にしました。アンダース・エリクソン氏は、長年にわたり、練習が熟練の鍵であると主張する多くの研究を行ってきました。つまり、この才能か努力かという、もっともらしい論争におけるガチガチの努力派です。マルコム・グラッドウェル氏も努力派で、何事も1万時間の練習をすれば一流になれる、という考えを広めました。この1万時間の法則を書いた本はベストセラーになりました。努力さえすれば誰でも一流になれる、という考えはとても魅力的だったからです。しかし残念ながら、一流になるには遺伝的要素が大きく、これなしでは成功できないということがわかってきました。とはいえ、一流の人は生まれながらにして一流であり、練習もせずに一流になれる、ということではありません。練習は絶対に必要です。でも、練習だけでは一流になれません。

 その良い例が、史上最強のチェスプレーヤーと称される、チェスの世界王者マグヌス・カールセン氏です。練習すれば一番になれるのならば、マグヌス・カールセン氏は、世界トップ10に入る他のチェスプレーヤーたちよりも、多くの練習をしていたことになります。しかし実際には、カールセン氏の練習量は、他のプレーヤーよりも少なかったのです。つまり、練習だけではダメで、別の何かが必要なのです。チェスのプロプレーヤーは、知性とチェスの実力には遺伝的要素が大きいと完全に確信しています。

世界最高のチェス・プレイヤー、マグヌス・カールセン氏。元々チェスの素晴らしい才能に恵まれていたと考えられている人のひとりだ。彼を引き合いに出して、環境よりも才能が大事だという科学者もいる。(PHOTOGRAPHY BY OLI SCARFF, GETTY)
世界最高のチェス・プレイヤー、マグヌス・カールセン氏。元々チェスの素晴らしい才能に恵まれていたと考えられている人のひとりだ。彼を引き合いに出して、環境よりも才能が大事だという科学者もいる。(PHOTOGRAPHY BY OLI SCARFF, GETTY)
[画像のクリックで拡大表示]

――今回調べてわかったことで、覚えておくべき最も重要なことは何でしょうか? 誰でも超人になれるのでしょうか? あるいは、才能のない人たちは、努力しても凡人のままなのでしょうか?

 もちろん、誰でも超人になれるわけではありません。それは当然として、重要なことは、これは落ち込むような結論ではないということです。私たちは、本で紹介した超人たちがやったことから学び、もう少しだけ前へ進み、生活の中でもう少しだけ幸せを感じ、もう少しだけうまくやることができるからです。超人でなくても、もっと幸せになり、日々の生活をより良いものにする方法はあります。超人の話を聞くとやる気になります。超人にはなれないとわかっていても、少しだけ上達することは、誰にでもできるからです。

文=SIMON WORRAL/訳=牧野建志

おすすめ関連書籍

2018年11月号

新しい顔で取り戻す人生/南極半島 消える生命の氷/未来の食べ物/オナガサイチョウ/苦境のベネズエラ難民/トルコ ダムに沈む歴史

特集「新しい顔で取り戻す人生」は18歳のときに顔を失った女性が顔面移植で新しい顔を与えられる物語。目をそらしたくなるような写真もあるかもしれませんが、ぜひ読んでいただきたい内容です。この他、新しい食材に注目した「未来の食べ物」、奇妙なくちばしを持つ「オナガサイチョウの受難」など11月号では6本の特集を紹介しています。

定価:1,131円(税込)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加