「超人」の秘密を探る、特別な人々から学べること

バスケのスター選手から顔面移植をした患者まで

2018.10.29
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いわゆるブルーゾーンの1つ、沖縄。世界的にも非常に長寿な地域だ。(PHOTOGRAPH BY ROBERT HARDING PICTURE LIBRARY)
いわゆるブルーゾーンの1つ、沖縄。世界的にも非常に長寿な地域だ。(PHOTOGRAPH BY ROBERT HARDING PICTURE LIBRARY)
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――成功を収めた人たちについて話をするとき、必ず問題になるのは、それが遺伝によるものか環境によるものか、つまり才能か努力かということです。こういう言い方は好きではないですよね?

 もちろんです! その2つを相反するものと考えるのは、完全に間違っています。才能か努力のどちらかだけが重要だと主張する遺伝学者はいません。どちらか一方だけでは、何もなし得ないからです。どんな遺伝子を持っていても、適切な環境がなければ機能しません。どちらか一方だけではダメで、両方そろって初めて、うまくいくものなのです。(参考記事:「ピカソはなぜ天才なのか、脳はその絵をどう見るか」

 そこで問題になるのは、どちらがより重要か、どちらが優先されるのか、どちらが他方の不足を補えるのか、ということです。人は長年にわたり、努力によって成功できる、一生懸命努力して練習すれば一番になれる、と希望を込めて信じてきました。素晴らしい考え方です。そうであって欲しいと思います(笑)。しかし、何かに関して非常に上達するだけではなく、世界で一番になるためには、必死に頑張り、環境を整えて努力することの他にも、遺伝的に優れていることが確かに必要だとわかってきました。

――バスケットボールのスター選手レブロン・ジェームズ氏が非凡な才能を発揮する秘訣の1つは、1日11〜12時間も眠ることだと言われています。これは科学的に正しいのでしょうか?

 睡眠が極めて重要なことは、これまでの膨大な研究によって示されています。80年代には、映画『ウォール街』の主人公ゴードン・ゲッコーの名台詞「金は眠らない」や、マーガレット・サッチャー元英首相の「睡眠は弱虫のもの」という考え方がありました。こうした考えは、特に都市労働者の間や男性優位の保守的な業界の中に、まだ根強く残っています。ドナルド・トランプ米大統領は、ほんの少ししか眠らないと自慢気に言います。サッチャー元英首相は、必ずしも自慢していたわけではありませんが、短時間睡眠で有名でした。彼女はアルツハイマー病を患い亡くなりましたが、今では、慢性的な睡眠不足が後年アルツハイマー病になるリスクを高めるエビデンスが得られています。膨大なデータにより、良質な睡眠を取れば、記憶力と認知能力が大幅に向上することがわかっています。これが、一流のスポーツ選手が睡眠に非常に気を使う理由です。だから、レブロン・ジェームズ選手は、睡眠をとても重視しているのです。(参考記事:「脳の掃除は夜勤体制」

――長寿地域「ブルーゾーン」とは、ナショナル ジオグラフィックの記者ダン・ビュイトナー氏が作った造語で、住人がとても長生きする地域のことです。その1つを取り上げて、長寿の秘訣を教えてください。

 ブルーゾーンの多くは温暖な地域にあり、素晴らしい気候に恵まれています。適切な地域支援ネットワークがあり、美味しくて健康的な野菜や魚が豊富です。特に、沖縄は日本でも長寿の地域であり、日本の平均寿命は世界トップレベルです。つまり、沖縄の住人は、世界で最も長生きする人たちです。沖縄の長寿の要因を真似して再現すれば、他の人たちも長生きできるようになると考えられていました。繰り返しになりますが、これも素晴らしい考え方です。しかし今では、遺伝学者はもっと別の要因があると考え始めています。ブルーゾーンには確かに健康の秘訣がすべてそろっているものの、長生きするためには長寿遺伝子も必要なのです。したがって、ブルーゾーンには、気候や食生活だけではなく、遺伝子もそろっていると考えられます。ブルーゾーンの住人は他地域との交流が少なく、多くの人が長寿に関連する遺伝子を持っているのです。(参考記事:「がんや糖尿病にならない100歳の遺伝子」

――顔面移植を受けた21歳の女性を紹介した『ナショナル ジオグラフィック』誌の特集記事が大きな注目を集めています。同じく顔面移植を受けたカルメン・タールトンさんのことが今回の本に書かれています。彼女のことと本に出てくる「レジリエンス・プロジェクト」について教えてください。

 まず、回復の章では、尋常ではない外傷から回復した人について書きたいと思っていました。別居中の夫から本当に恐ろしい暴力を受けたカルメン・タールトンさんのことは、とても詳しく書きました。ここでは、詳細に触れたくありませんが、苛性アルカリ溶液の工業用洗浄剤をかけられ、皮膚と顔の大部分に火傷を負い、殴られ、昏睡状態に陥りました。治療した外科医は、これまで見てきて生き残った人の中で、最も残虐な攻撃を受けて、最もひどい怪我していたと言いました。(参考記事:「顔を失った女性、顔面移植成功で再出発を誓う」

 彼女は3カ月間、昏睡状態に陥りました。意識を取り戻したとき、すぐに顔面移植という治療法があることを知らされました。彼女は驚異の方法で人生を取り戻したのです。その後、彼女はドナーとなった女性の娘さんと友人になりました。素晴らしいことです。

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2018年11月号

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定価:1,131円(税込)

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