「超人」の秘密を探る、特別な人々から学べること

バスケのスター選手から顔面移植をした患者まで

2018.10.29
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NBAのレブロン・ジェームズ選手。1日の睡眠時間は約12時間。新たに出版された本「超人」によると、この長い睡眠時間が、バスケットボールでの大成功につながった。(PHOTOGRAPHY BY LARRY W. SMITH/ POOL/ REUTERS)
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「超人」という言葉からは、悪と戦う漫画のキャラクターを思い浮かべる人も多いだろう。しかし、科学雑誌「ニュー・サイエンティスト」の編集長を務める進化生物学者ローワン・フーパー氏が、5月に出版した本『超人:ずば抜けた心と体を備えた人の人生(Superhuman: Life at The Extremes of Mental and Physical Ability)』で紹介している人たちは、あなたや私と同じ普通の人間だ。まあ同じというのは言い過ぎとしても、それほど変わらない。紹介されているのは、普通の人間だが、なんとかして普通ではないことを成し遂げた人たち。恐ろしい病気に苦しんでいても幸せを見つけた人や、バスケットボールのスリーポイントの名手などだ。

 フーパー氏は、ロンドンで行ったナショナル ジオグラフィックのインタビューで、意識はあっても話すことも動くこともできない「閉じ込め症候群」の女性が楽観的だったことがとても印象に残ったこと、NBAのレブロン・ジェームズ選手が眠ることが好きな理由、長寿地域「ブルーゾーン」の住人が特に長生きな理由には遺伝的要因もあるかもしれないことなどについて、次のように語った。

――この本を書くにあたり、爆弾処理の専門家から閉じ込め症候群の人まで、特別な人たちを多く取材したと思います。そのうちの何人かについてお話しいただけますか。そして、その人たちと私たちの共通点について教えてください。

 シャーリー・パーソンズさんは、閉じ込め症候群に苦しむ女性でした。脳幹卒中になった後、体は完全に麻痺しましたが、心に障害はありません。彼女のことを知ったのは、主治医が私に連絡をくれたからです。彼女は、ひどい後遺症が残ったのにもかかわらず楽天的で、その明るい性格や幸せの感じ方に、この主治医は感銘を受けたということでした。

 メールで連絡を取り合ううちに、彼女のことが少しわかり、会う約束をしました。そのやりとりの中で彼女は、自分が幸せな人間だと言い、それどころか、脳卒中を起こして閉じ込め症候群になる前よりも今の方が幸せだと言うのです。

 私には、まったく理解できませんでした。すごいことだと思いました。彼女に会って、そんなに恐ろしいことが起こったのに、どうしたら人生が幸せだと感じるだけでなく、前よりも幸せになったと感じることができるのか、その秘訣を知りたいと思いました。そこで彼女に会いに行ったんです。また、同様の障害を持つ人たちの研究をしている心理学者にも話を聞きました。(参考記事:「15年間植物状態の男性の意識を回復、定説覆す」

 こうした人たちに「いかがお過ごしですか?」とたずねると、大半の人たちは置かれた状況に折り合いを付け、幸せだと感じる術を見い出していることがわかりました。興味深いことですが、ひどいことが起こったせいで幸せではないと思われる人たちが、直観に反して実際には幸せなのです。それは非常に興味深いことだったので、詳しく調べてみました。

 一般的には、物を買ったり、給料が高い仕事に就いたり、より良い場所のもっと大きな家に引っ越したりなど、物質的・金銭的な幸せを追い求めなければならないと感じている人が多いです。しかし、閉じ込め症候群のせいで、そもそもこうしたことができなくなってしまった人たちを見ると、おそらくより深く幸せを感じる道が別にあるのだと気づかされます。これらの人たちと会ってわかった重要なことは、必ずしもそんなに大変な経験をしなくても、少し見方を変えるだけで、人生をもう少し豊かにできるということです。

――米国の独立宣言を起草した第3代米大統領トーマス・ジェファーソンは、「幸福の追求」は普遍的権利であると宣言しました。でも、幸福とはなんでしょうか? 物質的なものや精神的なものでしょうか? それとも遺伝的なものでしょうか?

 幸福とは何かというテーマだけを論じる学問分野があり、この議論に生涯を捧げる人たちもいます。ですが、議論するまでもなく、どんな時が幸せなのか、誰もが知っています。幸せとは感情です。ここでお話ししているのは、瞬間的な幸せについてであり、将来の計画や思想の話ではありません。新しい家や車を買えば幸せになるというような、瞬間的な感情の話です。

 人の基本的な性格には、おそらく遺伝的要素があり、日々の生活の幸せの感じ方にも影響を及ぼしています。ニュージーランドで行われた研究で、うつ病の重症度、逆に言えば、日常の幸福感の高さに関連していると思われる遺伝子が見つかりました。

 しかし幸福とは、そもそもとても主観的なもので、定義するのも難しく、遺伝子との関わりを解明することは困難です。これまで膨大な研究が行われてきましたが、まだ結論は出ていません。今のところ、遺伝的要素が多くの行動学的・生理学的な特質に関わっているように思われるとは言えます。しかしながら、それを左右する特定の遺伝子があるかどうかは、わかりません。

【動画】日常生活で幸せを見つける9つの簡単な方法 / 幸せを見つける方法とは? これらの9つの方法を実践すれば、どんどん幸せになれる。(解説は英語です)

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