回復に要する時間の長さに「ぞっとしました」

「このような研究は大雑把なものになりがちです。不確定要素が大きいからです。けれども今回の研究者たちは、すべてを見事に組み合わせました」と評価するのは、米ユタ州立大学の進化生態学者ウィル・ピアース氏だ。その結果は意外ではなかったが、それでも衝撃を受け、回復に要する時間の長さについてのくだりを読んだときには「ぞっとしました」と言う。「この研究は、地球上から多様性が大幅に失われる瀬戸際に私たちがいて、ヒトが絶滅する頃になってもまだ多様性が回復していない可能性があることを示しています。そう言われて心配にならない人は、何を聞けば心配になるのでしょうね」。なお、氏は今回の研究には参加していない。(参考記事:「地球のプレート運動、14.5億年後に終了説」

 カナダ、サイモンフレーザー大学の進化生物学者アーネ・ムーアーズ氏も、論文の結果に意外性はないが、考えさせられる研究であり、今後の保全政策に役立てるにはどうすればよいだろうかと戸惑いを隠せない。「これは、保全生物学者が保全しようとしているものの核心にかかわる、重大な問題です」

 研究と保全政策の隔たりに橋をかける方法はまだわからない。デイビス氏は、「これまでのところ、系統的多様性はもっぱら学術的な問題とされ、現場の保全活動家には縁がありませんでした」と説明する。彼は、そうした状況を変えていかなければならないと考えている。「保全の指標として系統的多様性だけを用いるべきだとは言いませんが、もっと活用するべきです」

絶滅の危機に瀕するインドリ(マダガスカル島だけに分布する尾の短い原猿)は、1900万年前にほかのキツネザルから分岐して独自の進化を遂げてきた。インドリは50年以内に絶滅すると考えられているが、そうなると進化史の大きな部分が失われてしまう。(PHOTOGRAPH BY JOEL SARTORE, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
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 とはいえ保全にかけられる時間も資金も限られている。オーストラリア国立大学の科学哲学者クリストファー・リーン氏は、今回のような研究は、必然的に、こうした資源をどのように配分するかという問題を生じさせると指摘する。彼は今回の研究には関与していないが、デイビス氏らの論文は進化的多様性を保全することの大切さを強調するもので、保全科学にとって「非常に重要」だと考えている。

「私たちは現在、独自の進化史をもつ系統を破滅的なペースで失っています」と彼は言う。「1つの種が失われるとき、私たちは進化の遺産を失い、この遺産がもっていたユニークな可能性を失うのです」(参考記事:「人間の影響で絶滅速度が1000倍に?」

 ピアース氏は、今回の知見は保全活動の緊急性や重要性を強調しているが、実際の保全活動が大きく変わることは期待できないと言う。「私が悲しく思うのは、歴史が失われてしまうことです」と彼は言う。「私たちが1つの種を死なせてしまうときには、数百万年も途切れずに続いてきたユニークな歴史を子どもたちから奪っているのです」

 私たちが古代人類の遺物の保護には熱心なことをピアース氏は皮肉に感じている。「ストーンヘンジは約5000年も前のものといって、私たちは絶対に破壊しないようにしています。でも5000年といったら、私たちが系統樹からバサバサと切り落としている哺乳類の枝が、辛うじてできるかどうかというほどの短い時間なのですが」(参考記事:「沈黙の巨石 ストーンヘンジの謎」

【参考ギャラリー】地球の奇跡!目を疑うほど色彩豊かな動物たち 写真42点(写真クリックでギャラリーページへ)
トラ(Photograph by Rakesh Dhareshwar, National Geographic Your Shot)

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